本来、不動産は重要な社会インフラであり、人々が「住む」「働く」「買い物をする」「旅をする」などの生活基盤として扱われてきたものであるはずです。ところが、これが相続税対策という名目に変わった瞬間、不動産としての社会的な役割から大きく逸脱して、目の前の節税という目的に拘泥し、求めている結果の達成にのみ心を奪われてしまうのは、決して健全な形での不動産投資マーケットの発展にはつながりません。

 アパート建設やタワマン購入を推奨する業者や金融機関、税理士などにとっては、投資によって実現できる節税効果はあくまでもセールストークの一環にすぎず、本当に効果があるかどうかに責任を持つものではありません。ましてやその後の不動産の運用や最終的な売却については、全くの無責任状態、あとは野となれ山となれで、不動産所有者となった相続人の未来にもともと関心などないのです。

 なぜ不動産が好調なのかを正確に報道すべきはずのメディアも、実態をよく理解していません。マンションが売れていれば、「マーケット好調、早く買わなければますます値上がりか」などと煽るだけで、この事象の裏に潜んでいるリスクについて論考することは稀です。

首都圏新築マンション購入者の多くは高齢者

 たとえば首都圏の新築マンションマーケット。平均価格は6000万円を超え、到底一般国民では手が届かなくなっています。ところがよく売れている。ここまではおおかた事実です。しかし、報道されるのは世帯年収が1500万円程度のパワーカップルが、税制上の特典や低金利を背景に積極的に買っている、との上辺だけの内容です。あるいは中国人が大量に買い占めている(これも一部では事実ですが)、などといった一部の嫌中の人々が飛びつくような表現で記事にしているだけで、真相に迫ることができていません。実は新築分譲マーケットにおける購買者の多くは、高齢者名義での購入で、その目的が相続税対策にあることについては見事に抜け落ちています。

 読むほうも、マンションといえば、都会生活にあこがれる若者が住宅ローンで背伸びして買うマイホーム、などという一時代前の価値観でこうした記事を読んではいけないのです。