今の仕事にはいつか終わりが来る
大事なのはポートフォリオの多様化
セック ある実験を行いました。架空の求人募集2件を設定したのです。求職者も2パターンを考え、一方の応募理由を「その仕事に情熱を感じているため」とし、もう一方を「組織や勤務地、給与が気に入ったため」としました。
そして、実験参加者に、雇用者の立場であればどちらの求職者を採用すべきか尋ねたところ、いずれの求人募集でも、「仕事に情熱を感じている応募者」が選ばれました。情熱を持っていれば一生懸命働き、昇給なしに、より多くの責任を請け負うだろうと判断されたからです。
情熱を傾けて人一倍働いても、雇用主が賃上げをしてくれるとは限りません。実験参加者は、情熱にあふれた求職者を「対価なしに、より多くの労働力を搾り取ることができる人」だとみなしたのです。
日米を問わず、脱工業化資本主義における労働市場は、労働者が自己を育て、充足感やアイデンティティーを育むような構造にはなっていません。経営者側の利益を高めるように出来ているのです。
情熱を持って働いても、組織が私たちの労働力をもはや有用ではないとみなせば、お払い箱になります。雇用主は働く側の希望や期待に反し、従業員の自己やアイデンティティー、充足感など気にかけてはくれません。
――幸運にも「天職」を見つけた人は、逆にリスクを抱えることになるのでしょうか。
セック そのとおりです。仕事にはいつか終わりが来るからです。だからこそ、仕事のポートフォリオを「多様化」させることが必要です。
私自身、本の執筆以前は大学教諭という仕事に情熱を持っていると心から感じていましたが、今では、仕事との関係をもっと慎重に考えなければと感じています。例えば、ホームオフィスの左側の壁に掛かっている、このアートは私が創作したものですが、アート作品を作ることで、ポートフォリオの多様化を図っています。
――あなたも指摘していますが、故スティーブ・ジョブズ氏が2005年にスタンフォード大学の卒業式で述べた祝辞は、情熱主義の象徴のように思えます。「最も大切なのは、自分の心と直感に従う勇気を持つことだ」と。