小さなこだわりに込められた深い思い
グラフィックデザイナー
1983年生まれ。武蔵野美術大学デザイン情報学科卒。2007年より文平銀座に所属し、装丁などデザインの仕事に携わる。2015年よりフリーランス。装丁を手がけた作品に『あの日、選ばれなかった君へ 新しい自分に生まれ変わるための7枚のメモ』(阿部広太郎)、『すばらしい人体 あなたの体をめぐる知的冒険』(山本健人)、『WHAT IS LIFE? 生命とは何か』(ポール・ナース)などがある。
阿部 このタイトルに使われている書体って何のフォントでしたっけ。
鈴木 あ、ここは「筑紫オールドゴシック」ですね。
阿部 このタイトルのこのゴシックの感じがすごくよかったですね。
鈴木 筑紫オールドゴシックというのは、筑紫書体シリーズのひとつです。筑紫書体を作ってらっしゃる藤田重信さんの書体は、可読性としての機能はもちろんありますが、どこか絵的、ひとつのビジュアルとしても成立するような造形が魅力的な文字です。使う書体は、ゴシックがいいなと思ってたんです。でも、やっぱり完全にニュアンスが削ぎ落とされてるよりは、もうちょっとそうじゃないほうがいいなと。かといって明朝体になると今度、阿部さんがもう完全に卒業したアルバムみたいになってしまう。阿部さん自身は別に卒業してるわけではないので、あくまでも現時点でのアルバムという感じでしょうか。
阿部 この人は明朝っぽいなとかゴシックっぽいなみたいな、そういうふうに思うことってありますか。僕はそれでいうと、ゴシックっぽいキャラクターですかね。
鈴木 そうですね(笑)。
阿部 僕の名前を額の外に入れるか中に入れるかも、悩まれたりしましたか。
鈴木 あ、そうですね。タイトル下に横で組むことも考えたのですが、なんだかちょっと……横に全部組むと、素直過ぎるなって感じがしたので、全体感としては比較的素直に受け止められる佇まいにしたいなと思ったのですが、入り過ぎると通り過ぎちゃう。そういう感じにはしたくないなと思っていたので……
阿部 素直な中にも引っ掛かりを作ってるんですね。
鈴木 そうですね。あと、帯を掛けたときに、コピーをしっかりちゃんと入れたいなというのもあったので。これ絶対大きくないと伝わらないなと思ったので、それを優先したいというのもありました。
阿部 額縁であり、扉のようにも見えますもんね。いや、すごいな。じゃ、こういうふうに描いていこうと決めてからは、この縁のイラストは集中して、一気に描いたって感じでした?
鈴木 そうですね、装丁のほうはもともと、打ち合わせの時に話していた気がするんですけど、あまり意味を持ち過ぎた絵は入れるつもりはないといったことはお伝えしていました。どうしても、もう阿部さんの言葉がビジュアルみたいな側面はあるので。
阿部 なるほど。
鈴木 ちょっと内容の話を聞いてみたかったんですけど、阿部さん自身は、この章の中でご自身が一番、フィットしてると言ったらおかしいですけれど……自分の言葉で言えてるなって感じがしてる章ってあったりするのでしょうか。
阿部 ああ、そうですねぇ……第7章の「仕事とプライベート、どちらかを選ばなければいけない?」がやっぱり個人的にも一番最近の話だったりするのと、恋愛やプライベートな部分の話を濃く書くというのが自分にとって挑戦でもあったので。仕事を一生懸命にやればやるほどバランスを崩してしまうけれど、それでもやれることがあるんじゃないかと書きながら気づけたことも良かったですね。働くだけじゃなくて、どう生きていくかについて書けた第7章は印象深いです。
鈴木 そうですね。永遠の悩みですね、それは。
阿部 鈴木さんとの打ち合わせのときに、助けを求められる状態こそ実は自立してるんじゃないかという話がありましたよね。いかに自分の困ってる状況とか、ちょっと大変な状況を人に伝えられるか。どこかで遠慮してしまったり照れてしまったり、うまく言えなかったり。頼るのが負けのような気持ちもするかもしれないけど、そうじゃなくて、どうやってチームとして一緒に作っていくかをちゃんと言葉にできてよかったですね。(後編に続く)
1986年3月7日生まれ。埼玉県出身。中学3年生からアメリカンフットボールをはじめ、高校・大学と計8年間続ける。2008年、慶應義塾大学経済学部を卒業し、電通入社。人事局に配属されるもクリエイティブ試験を突破し、入社2年目からコピーライターとして活動を開始。「今でしょ!」が話題になった東進ハイスクールのCM「生徒への檄文」篇の制作に携わる。作詞家として「向井太一」「円神-エンジン-」「さくらしめじ」に詞を提供。Superflyデビュー15周年記念ライブ“Get Back!!”の構成作家を務める。2015年から、連続講座「企画でメシを食っていく」を主宰。オンライン生放送学習コミュニティ「Schoo」では、2020年の「ベスト先生TOP5」にランクイン。「宣伝会議賞」中高生部門 審査員長。ベネッセコーポレーション「未来の学びデザイン 300人委員会」メンバー。「企画する人を世の中に増やしたい」という思いのもと、学びの場づくりに情熱を注ぐ。著書に『待っていても、はじまらない。ー潔く前に進め』(弘文堂)、『コピーライターじゃなくても知っておきたい 心をつかむ超言葉術』『あの日、選ばれなかった君へ 新しい自分に生まれ変わるための7枚のメモ』(ダイヤモンド社)、『それ、勝手な決めつけかもよ? だれかの正解にしばられない「解釈」の練習』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。