事業領域の拡大のための中途採用増加
優秀な人材を確保し事業領域の拡大を実現するため、中途採用を強化する企業は増えている。1990年代初頭にバブル経済が崩壊して以降、わが国経済は長期停滞に陥った。多くの企業では、「あつものに懲りてなますを吹く」心理が高まった。リスクを避けようとする心理が過度に高まり、成長期待が高いITなど先端分野で投資を積み増すことが難しくなった。
そうしてわが国は、世界経済のデジタル化に乗り遅れた。一方、米国ではマイクロソフトやアップルなどが高い成長を実現し、ソフトウエア分野への選択と集中を進めた。各社は、プログラマーなどの専門人材を労働市場から採用し、迅速に新しいビジネスモデルを確立した。中国、韓国、台湾などアジアの新興国はそうした企業が設計・開発した製品の生産を受託したり、メモリ半導体などの製造技術をわが国から移転したりすることによって、輸出競争力を高めた。
現在、世界経済全体で環境変化のスピードが加速度的に高まっている。それは、日進月歩どころか、「秒進分歩」の勢いだ。デジタル化や脱炭素、地政学リスクの高まりなどの影響は大きい。特に、ビッグデータの利用増加や脱炭素に関する取り組みの強化によって、過去の常識が当てはまらないケースも増えている。
そうした環境変化に、わが国企業も対応しなければならない。ビッグデータを分析してどのような消費者の行動が示唆されるか。それをどのように研究開発やマーケティング戦略などに用いることができるか。あるいは、米国の求める対中半導体禁輸措置が業績に与える影響はどの程度か、自社の認識で法的な問題はないか…。こうした特定の分野における高度な知識やスキルを持つ人材への需要が急速に高まっている。
時代の要請への対応という点でも、わが国の新卒一括採用と年功序列型評価、終身雇用といった硬直的な雇用慣行はもう限界だ。