成功する人と、そうでない人は何が違うのか。多くの人が関心を持つこのテーマに、「GRIT(やり抜く力)」という新しいキーワードを打ち立て、全米で大きく注目されたのが、ペンシルベニア大学のアンジェラ・ダックワース教授。そんな彼女の長年の研究成果をまとめた書籍は瞬く間に全米でベストセラーになり、30カ国以上で刊行が決まった。その日本版が『やり抜く力──人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』だ。「やり抜く力」とは何か。どうすれば「やり抜く力」を高められるのか。子どもの「やり抜く力」を高めるには?(文/上阪徹)

子どもや部下の「やり抜く力」を伸ばす意外な一言Photo: Adobe Stock

「仕事」を「天職」に変える方法

 成功を左右するのは、才能ではなく「グリット(やり抜く力)」。ペンシルベニア大学のアンジェラ・ダックワース教授の研究成果が1冊にまとめられ、30万部を超えるベストセラーになっているのが、『やり抜く力──人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』だ。

 本書では、「やり抜く力」を強くする4つのステップが語られているが、第1ステップ「興味」、第2ステップ「練習」に続き、第3のステップとして掲げられているのが、「目的」を見出すことだ。

 目的もなく何かをするのと、目的を持って何かをするのとでは、「やり抜く力」に大きな差が生まれるのは容易に想像ができる。「レンガ職人」の寓話は、あまりに有名だ。

 ある人がレンガ職人に「なにをしているんですか?」とたずねた。すると、三者三様の答えが返ってきた。

1番目の職人は「レンガを積んでるんだよ」。
2番目の職人は「教会をつくっているんだ」。
3番目の職人は「歴史に残る大聖堂を造っているんだ」。
(P.208-209)

 1番目のレンガ職人にはレンガ積みは単なる「仕事」に過ぎないが、2番目の職人には「キャリア」、3番目の職人には「天職」となる。どれが最も「やり抜く力」が強くなるのかといえば、もちろん3番目である。

 目的は、「やり抜く力」において、極めて重要なのだ。

「やり抜く力がある人」の考え方にはこんな特徴がある

 そして、より強い「やり抜く力」を持つ人たちは、単なる目的ではなく、必ず「他者」を目的にしていると著者は説く。

「やり抜く力」の鉄人が、自分の目指していることには「目的」があると言うとき、そこには単なる「意図」よりも、もっと深い意味が込められている。「目的」が明確であるだけでなく、その「目的」には特別な意味があるのだ。
(中略)ひとりの例外もなく口にするのは、他者のことだ。「うちの子どもたち」「私のクライアントたち」「僕の生徒たち」など具体的な人を差す場合もあれば、「この国」「このスポーツ」「科学」「社会」など、もう少し広く一般的な人びとを指す場合もある。
(P.204)

 この記事を書いている私は、たくさんの成功者に取材をする仕事をしてきたが、まさに同じ印象を持っている。彼らにも、もちろん私欲がないわけではない。お金持ちになりたい、経済的に成功したい、有名になりたい……。

 しかし、大きな成功を遂げている人ほど、より大きな「目的」、他者を意識した「目的」を持っているのだ。「社員を幸せにしたい」「地域社会に貢献したい」「世の中をよくしたい」「世界平和に役に立ちたい」……。

 実際、私欲がもし一番なら、お金持ちになれた瞬間、もう目的は達せられてしまう。個人的な成長も、仕事人としてのモチベーションも、そこで止まってしまうのだ。

 しかし、大きな「目的」なら、そうはいかない。どれほど成功したとしても、簡単に「目的」には到達できないからだ。だから、常にモチベーションが高く保てる。これでもう満足、とはならない。大きな目標に向け、イキイキと日々を過ごしていける。

 だが、多くの人が、そんな気持ちになれる「天職」に就ける人はごく一部だ、と考えているようである。それは、特別なことだと感じているのだ。しかし、そうではない。実は、すべての仕事が、誰かの役に立っている。重要なのは、それをしっかりと自覚できるかどうか、だ。著者もこう書いている。

 肩書きよりも重要なのは、本人が自分の仕事をどう見なしているかだ。それはとりもなおさず、わざわざ職業を変えなくても、ただの「仕事」だと思っていたものが「キャリア」に、そしてついには「天職」に変わる可能性もあるということだ。(P.213)

「天職」はどこかにあるのではない。どんな仕事であれ、自分が「天職」だと思えば、それは「天職」なのである。自分の仕事が誰のためにどう役に立っているのか、改めて見つめてみるといい。そして、そういうことをしっかりと自覚させてくれる会社で、働くのがいい。

「何度も立ち上がれる人」の秘密

 著者が紹介している「やり抜く力」を強くするステップ、最後の第4ステップは「希望」である。「もう一度立ち上がれる」考え方をつくることだ。

「明日はきっと今日よりもいい日になる」と期待するのも、希望のひとつのかたちだ。(中略)将来がよくなるかどうかは、運任せと言ってもいい。
「やり抜く力」が発揮されるのは、それとは異なる希望をもつときだ。それは「自分たちの努力しだいで将来はよくなる」という信念にもとづいている。
(P.226)

 運とは関係がない。「何度転んでも起き上がる」力だ。実際に心理学の動物実験で、何が無力感を生み出すかがわかったのだという。それは苦痛そのものではなく、「苦痛を回避できないと思うこと」。「もう自分には無理だ」と考えてしまうことである。

 だが、楽観主義者はそうは考えない。

 楽観主義者も悲観主義者と同じようにつらいできごとを経験するが、受けとめ方が異なるのだ。楽観主義者は自分の苦しみは一時的で特定の原因があると考えるが、悲観主義者は自分の苦しみを変えようがない原因のせいにして、自分にはどうすることもできないと考えてしまう。(P.233)

「やり抜く力」を伸ばすために必要なのは楽観であり、成長思考なのだ。努力すればきっとうまくできると信じることができるかどうか。

 そして実はこれは、子どものころの「ほめられ方」が一生を左右するという。「成長思考」「やり抜く力」を妨げるか、伸ばすか、表現一つで変わるのだ。

「成長思考」「やり抜く力」を伸ばす・妨げる表現「成長思考」「やり抜く力」を伸ばす・妨げる表現(『やり抜く力』P.243より)

 これはリーダーがマネジメントをするときにも同じことが言えるかもしれない。わずかな一言が、部下の成長を妨げるか、伸ばすかを左右する。

 そしてリーダー自身が、また親自身が「人間はその気になれば、何でも学んで身につけることができる」と心から信じていること、さらに、それを行動によって示すことが大事だと著者は語る。部下や子どもは真似をするからだ。実は組織文化や風土、家族の価値観は、リーダーや親がつくっているのだ。

 では、どうすればよいのだろうか? 着実な一歩を踏み出すには、まず自分の「言葉」と「行動」が裏腹になっていないかに注意することだ。そうなってしまった場合は(必ずそういう場合もある)、固定的で悲観的な世界観から抜け出すのはなかなか難しい、という事実を認識すればよい。(P.247)

 本書『やり抜く力』を読んでいて強く感じるのは、終始一貫、著者が読者を徹底的に応援してくれている姿勢である。大丈夫、もっとやれる。もっとうまくいく。もっといい人生が待っている……。著者のそんなやさしさに触れるだけでも、一読の価値はある。著者は本気で、この世界をよりよいものに変えようとしているのだ。

(本記事は『やり抜く力──人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』より一部を引用して解説しています)

上阪 徹(うえさか・とおる)
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。書籍や雑誌、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。著者に代わって本を書くブックライティングは100冊以上。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『マインド・リセット~不安・不満・不可能をプラスに変える思考習慣』(三笠書房)、『成功者3000人の言葉』(三笠書房<知的生きかた文庫>)、『10倍速く書ける 超スピード文章術』(ダイヤモンド社)ほか多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。

【大好評連載】
第1回 【全米調査で判明】「成功する人」と「ずっと並の人」を分ける1つの意外な能力
第2回 【世界の成功者が明かす】「一流になる人」と「二流で終わる人」の決定的な差
第3回 【科学者が最終結論】仕事・勉強・スポーツ…結果につながる「超・練習法」