成功する人と、そうでない人は何が違うのか。多くの人が関心を持つこのテーマに、「GRIT(やり抜く力)」という新しいキーワードを打ち立て、全米で大きく注目されたのが、ペンシルベニア大学のアンジェラ・ダックワース教授。そんな彼女の長年の研究成果をまとめた書籍は瞬く間に全米でベストセラーになり、30カ国以上で刊行が決まった。その日本版が『やり抜く力──人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』だ。「やり抜く力」とは何か。どうすれば「やり抜く力」を高められるのか。子どもの「やり抜く力」を高めるには?(文/上阪徹)

【科学者が最終結論】仕事・勉強・スポーツ…結果につながる「超・練習法」Photo: Adobe Stock

「メガ成功者」から繰り返し聞いた一言

 成功を左右するのは、才能ではなく「グリット(やり抜く力)」。成功を捉える新しい切り口での研究が注目されてきたペンシルベニア大学のアンジェラ・ダックワース教授。その研究成果が1冊にまとめられ、30万部を超えるベストセラーになっているのが、『やり抜く力──人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』である。

 本書では、「やり抜く力」を強くする4つのステップが語られている。まず、第1のステップが、「興味」を結びつけることだ。情熱を抱き、没頭する技術である。最もわかりやすいのは、「好きなこと」をやること。

「情熱に従って生きよう」
 学位授与式のスピーチで人気のテーマだ。学生のときも、教授になってからも、これまで何度も耳にしてきた。そのうち半数以上のスピーカーは、「自分が本当に好きなことをするのが大切だ」と訴えていた。
(P.136)

 そして著者は「やり抜く力」を研究する上で成功者たちにインタビューする際、同じことを何度も耳にすることになる。そして200名以上の“メガ成功者”たちにインタビューしたことのあるイギリスのジャーナリスト、ヘスター・レイシーにはこんなことを言われたと書く。

「何度も聞いたのは『この仕事が大好きだ』という言葉です。ふつうの人も言いますが、もっとあっさりしています。でもメガ成功者たちはちがうんです。『僕は本当にラッキーだよ。朝、目が覚めて、今日も仕事ができると思うとうれしいんだ。(中略)』。彼らは、やらざるを得ないからとか、金銭面で魅力的だからとか、そんな理由で仕事をしているわけじゃないんです」(P.138)

 実は多くの成功者にインタビューをしてきた私も、同じような印象を持っている。

科学者が結論づけた「高い成果」の共通点

 好きなことをやっているから、端から見れば大変なことも、本人には苦労や努力にはならないのではないか。これはどうやら事実のようである。なぜなら、好きなことなら楽しいからだ。好きなことなら当然、「やり抜く力」が強くなることは想像できる。

 じつはこの問題については、「興味」を研究している科学者たちが、この10年ほどで最終的な結論に達した。
 第一に、人は自分の興味に合った仕事をしているほうが、仕事に対する満足度がはるかに高いことが、研究によって明らかになった。(中略)
 第二に、人は自分のやっている仕事を面白いと感じているときのほうが、業績が高くなる。これは過去60年間に行われた、60件の研究データを集計したメタ分析による結論だ。
(P.140)

 だが一方で、若いビジネスパーソンなどからは「好きなことが見つからない」という声がたくさん聞こえてきたりもする。おかげで、私はチャンスがあれば、取材でこんなことを聞くようになった。

「どうすれば、好きな仕事を見つけられますか」

 実際、子どもの頃からやりたいことがあって、それを貫いた、という成功者もいたし、何か運命的な出会いやきっかけがあった、という人もいた。しかし、むしろそうでない人のほうが多かった。いくつかの紆余曲折を経て、最終的に今の「好きなこと」に辿り着いた人もいた。

 ある著名なジャーナリストに至っては、こんな金言がもらえた。

「人生は、好きなこと探し」

 好きなことは、探し続けてようやく見つかるのだ。本書『やり抜く力』にも、こう書かれている。

 ほとんどの人は「これだ」と思うものが見つかるまでに何年もかかっており、そのあいだ、さまざまなことに興味をもって挑戦してきたことがわかった。いまは寝ても覚めても、そのことばかり考えてしまうほど夢中になっていることも、最初から「これが自分の天職だ」と悟っていたわけではなかったのだ。(P.142)

 また、私が取材で聞いた、もう一つの金言も入っていた。それは、「そこにあることを好きになる努力をする」ことだ。

 好きになれなければ、努力はできない。嫌いだと思っていたら、いつまでも成長できないのである。これは子どもの成長についても同じだ。こうした「情熱を育む方法」についても、著者は詳しく書き記している。

「成果が出る練習」「出ない練習」の決定的な違い

「やり抜く力」を強くする第2のステップは、「練習」を理解することだ。成功する「練習」を知ること。やってもムダな方法、やっただけ成果の出る方法を知ることである。

 努力し、成果を出すには時間がかかる。それは仕方がないことだ。しかし、時間をかければスキルが伸び、成果が出るのかといえば、必ずしもそうではない。長く同じ仕事をしていればスキルが上がるわけではない、とはそういうこと。では、何が違うのか。

 インタビュー調査の結果、私は「やり抜く力」には、興味のあることに取り組んだ「時間の長さ」だけでなく、「時間の質」も関係しているのではないか、と考えるようになった。
 つまり、「どれだけ長時間、取り組んだか」だけでなく、「どれだけ集中して、質の高い取り組みを行ったか」が大事なのではないか、ということだ。
(P.166)

 そしてスキルの発達についての資料を片っ端から読んでいった著者は、認知心理学者のアンダース・エリクソンから学びを得る。著者は自分自身をケースに、18歳から週に数回、1時間のジョギングを行っているが、速くならないのはなぜか、と聞いたのだ。

 エリクソンに問われたのは、トレーニング目標はあるか。体系的な記録をつけているか。コーチをつけているか、だった。どれも、答えはノーだった。

「ふむ」エリクソンは満足気に言った。「わかりましたよ。あなたが上達しないのは、意図的な練習をしていないからです」(P.170)

 必要なのは、意図を持った練習なのだ。これは、仕事でも同じ。ただ仕事をしているのでは、上達はしない。意図的に目標を持ち、自身の成長度合いを理解し、それをサポートしてくれる人がいるから、スキルは伸ばせるのである。

 これは子どもの教育も同じだ。勉強を「意図的な練習」にしていくことができるかどうか。そして、それをやっている仲間たちに加わることも大きな意味を持つ。
 そして日本人は、とりわけ注意が必要そうである。

 オリンピックのボート競技金メダリスト、マッズ・ラスムッセンは、日本のチームに招かれて訪日した際、選手たちの練習時間のあまりの長さに衝撃を受けた。そして、「ただ何時間も猛練習をして、自分たちを極度の疲労に追い込めばいいってものじゃない」と諭したという。(P.194)

「好きなことをやること」「意図的な練習をすること」に続き、「やり抜く力」を強くする、もう2つのステップがある。
(次回に続く)

(本記事は『やり抜く力──人生のあらゆる成功を決める「究極の能力」を身につける』より一部を引用して解説しています)

上阪 徹(うえさか・とおる)
ブックライター
1966年兵庫県生まれ。89年早稲田大学商学部卒。ワールド、リクルート・グループなどを経て、94年よりフリーランスとして独立。書籍や雑誌、webメディアなどで幅広く執筆やインタビューを手がける。これまでの取材人数は3000人を超える。著者に代わって本を書くブックライティングは100冊以上。携わった書籍の累計売上は200万部を超える。著書に『マインド・リセット~不安・不満・不可能をプラスに変える思考習慣』(三笠書房)、『成功者3000人の言葉』(三笠書房<知的生きかた文庫>)、『10倍速く書ける 超スピード文章術』(ダイヤモンド社)ほか多数。またインタビュー集に、累計40万部を突破した『プロ論。』シリーズ(徳間書店)などがある。

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