「外国人の奴隷労働」を変えない、根本にある問題とは

 さて、ここまで説明をすれば、日本政府が難民認定に厳しいのは、技能実習制度を守るためだという筆者の主張がご理解いただけのではないか。

 日本側から見た、技能実習制度の最大のメリットは、外国人労働者から、職業選択の自由を奪って、人手不足業界に縛りつけることができるということだ。

 この制度を利用する人の多くは祖国で多額な借金をしている。だから、どんなに辛くても、どんなに非人道的な扱いをしても、日本の若者のように急に飛んだりせず、歯を食いしばって働くだろう――。制度設計をした日本政府のエリートたちは、外国人に日本の技術を教えるのだと言っていたが、本当の「狙い」はそこだった。

 ある意味、かつて東北の寒村で、貧しい農家が口減らしで、子どもたちを働き手として「人買い」に売っていたのと同じ感覚で、外国人労働者を見ていたのである。

 この制度を守って、人手不足業界に外国人労働者を安定的に送り続けるには、「難民申請」なんて制度は百害あって一利なしだ。だから、厳しい審査で狭き門にした。自分で職業を選んで、好きな時間だけ働くことができる外国人が社会に増えてしまったら、低賃金でコキ使われて、しかも逃げることが許されない技能実習生の不満が爆発してしまう。

 つまり、日本の難民認定が厳しいは、決して外国人を受け入れたくないわけではなく、国内にいる低賃金で働いてくれている「外国人奴隷」の皆さんを、人手不足業界につなぎ留めておくためなのだ。国際社会が思っているよりも、はるかに「内向き」な理由だ。

「難民という人命に関わる人権問題と、国内の労働者問題をごちゃ混ぜにするなんてそんな愚かなことをするわけがないだろ」という意見もあろうが、日本にとっては外国人労働者問題というのは100年続く、非常に重要な政治課題だ。

 古くは、明治期に当時、不人気だった炭鉱での仕事を、朝鮮半島からの労働者で補う「労力の輸入」という国策を決定しから、「日本人が嫌がる仕事をどうやって外国人にやらせるか」というのは為政者たちが頭を悩ませ続けてきた永遠のテーマなのだ。

 そういう「外国人を奴隷のように使う国」に憧れ、母国で借金を抱えてまでやってくる外国人がいるというのは、なんとも皮肉な話だ。

 雇用主からパワハラや暴力を受けた技能実習生たちは会見や取材で、「日本はすごくいい国だと思ってやってきたけれど違っていた」というようなことを言う。

 在留資格を奪われないため、劣悪な環境から逃げることも許されず「奴隷労働」を強いられている技能実習生も、ある意味で「難民」と言えなくもない。

 祖国から逃げてきた外国人に人道的な支援をすることも大切だが、まずは国内で深刻な人権侵害を受けている技能実習生に手を差し伸べるのが先ではないか。

 日本の難民政策を変えるには、今の「外国人の奴隷労働」を変えなくてはいけない。それはつまり、自民党の支持層である中小零細企業の保護政策に手を突っ込むということなので、政治力学的に難しい。

 情けない話だが、日本が世界から多くの難民を受け入れる日は、まだかなり先のようだ。

(ノンフィクションライター 窪田順生)