コロナ禍によって、対米観も対日観も変化した

 次にコロナ禍の影響が挙げられる。2020年以降、中国人の出入国もほぼ停止状態となり、海外に関する報道といえば、各国のコロナ感染状況、そして米国との対立をあおるものが中心となった。筆者は中国がゼロコロナ政策を取っていた2022年に、中国人の中国観を描いた本を出版したが、その過程で、コロナ起源を巡り、米国への憎悪を深める中国人がいかに多かったかを思い知った。

 対照的に、日本に対しては「安心・安全な国」という認識が以前にも増して強くなった。むろん、日本人からすれば、近年は、日本も安心・安全とはいえない状況になってきていると感じるが、ゼロコロナ政策で移動を強く制限され、政府の鶴の一声によって、一瞬で自由や人権が奪われるかもしれない中国は次元が異なる。厳しい環境に暮らす彼らにとって、日本は自国とは比べ物にならないほど安全で、理想的な国だ。そのことを、コロナで再認識した人が多い。

 2022年、中国での生活に耐えきれず、日本の不動産を購入し、日本に移住してきたある男性は「ゼロコロナ政策で身も心も疲れ果てていたが、日本ではコロナ禍でも社会の秩序は保たれ、人々は落ち着いた生活を送っていることに驚いた。日本での生活は、中国で感じるようなストレスがない」と語っていた。

 また、来日できないまでも、日本に対して「郷愁」「憧れ」「共感」を持つ中国人が増えた。「コロナで日本旅行に行きたくても行けないから」と、ネットで買ったコタツをリビングに置いて、日本風の生活を楽しんだり、日本風のラーメン店や、昭和の雰囲気が漂う居酒屋に足繁く通ったりする人が増えた。特にZ世代と呼ばれる10代後半~20代の若者の間では、昭和を代表するアイドルにハマる人が急増。昭和風のレトロな写真を撮影してSNSに載せたり、昭和アイドルの曲を聴いたりするのがはやった。生き馬の目を抜く中国での生活はとにかく目まぐるしく、人々は常に緊張しているが、そんな中、SNSで、日本の穏やかな生活を見て、憧れの気持ちを抱いた人が多い。