平和な日本には老舗企業がたくさんある
「日本買い」をしているのは若者だけではない。コロナ前、日本に旅行した上海在住の40代の男性は「日本の老舗企業の多さに感心した」と話していた。
「老舗が多いのは日本が平和な国である証拠。中国は動乱が多く、資金力がないと同業他社にすぐ叩きつぶされるので、長く続く企業は少ない。次に日本旅行に行ったら、単に観光するだけでなく、老舗企業の経営者から事業継続の秘訣を学びたい」(上海在住の男性)
この男性が特に興味を持ったのは、山形県の高木酒造が造る日本酒の『十四代』。中国では日本酒が大ブームを巻き起こしているが、商品の良さだけでなく、経営者や職人に直接、開発や経営に関するエピソードを聞いてみたい、と語る。中国でも、孫正義氏や柳井正氏など、日本を代表する経営者に関する本や記事は多数、翻訳されて出回っており、一部の経営者のバイブルになっているが、知る人ぞ知る地方企業の経営者や、熟練の技を持つ職人の考えなどについては、なかなか知るすべがないからだ。
そうしたこともあり、実は、コロナ禍の前から、中国の企業や団体が日本を視察するツアーがじわじわと増えていた。正式な統計はないが、そこに介在しているのは、たいてい日本社会を熟知している在日中国人だ。
インバウンド、日中ビジネスマッチングなどの事業を行う「シンフロンテラ」を経営し、在日中国人インフルエンサーとしても活躍する雷蕾(レイレイ)氏によると、「2016年頃から、コロナの前の2019年まで、中国からの視察ツアー、スタディーツアーが増えました」という。
中島恵 著
「ニッチな分野で『日本の○○を見学したい』という要望がかなりありました。たとえば、柔道家の古賀稔彦さんの古賀塾を見学したいという要望があって、合宿を行いました。中国ではまだ柔道人口が少ないので、有名な古賀さんの塾で指導を受けるのは、中国の子どもたちにとって貴重な経験だったと思います。ほかに、地方の農業見学ツアーなどもお手伝いしたことがあります。先進的な取り組みをしている日本の農業に対する関心はとても高いんです。今後、往来が増えれば、もっと増えるでしょう」(雷蕾氏)
このように、中国人が「日本を買っている」(高く評価している)のは、不動産から専門的な商品まで多岐にわたるが、それは、彼らが日本を乗っ取ろう、日本製品を買い占めようと思っているわけではなく、中国には「ないもの」が、日本にはあまりにも多く、しかも、魅力的だからなのだ。