ATMの現金振込が値上がりするのは
使ってほしくないから!
わかりやすい例として先に説明させていただくと、コロナ禍の間に非接触の決済が主流になり、日本人は現金を使わなくなってきました。
コロナ禍前の“日本人の大半が現金しか使わない”傾向が強かった時には、「ATMがそこらじゅうにあること」に大きな意味がありました。そのため、日本では銀行にも駅の無人ブースにもコンビニにもATMがあり、ほぼ年中無休で24時間現金が引き出せる“現金天国”だったわけです。
ところがそのために「世界と比べてキャッシュレスが大幅に遅れている」状態になり、政府が危機感を持つようになります。2015年の我が国のキャッシュレス比率は18.2%と先進国の中では突出して低かったのですが、そこから政府の旗振りがはじまります。
PayPayなどのQRコード決済が増え、クレジットカードの手数料が下がったことで、コンビニの少額決済もカードで済ませられるように制度も変更になりました。
折からのコロナ禍の影響もあり(現金って結構ウイルスを運びやすいんです)、2022年には我が国のキャッシュレス比率は36.0%と大幅に上昇しました。
そうなってくると、銀行から見ればATMは徐々に負の資産となってきます。銀行では出張所などの支店以外の設備を中心にATMの台数削減が進められています。
全国銀行協会によれば、金融機関のATM台数はピークだった1999年には約11万9000台あったところから、2021年9月末には約9万3000台まで減少しています。
これは銀行経営から見れば当然のことで、ATMは機械としての価格も高いうえに、現金を補充回収したりセキュリティーを高めるなどの維持運営のためのコストも高いのです。自行のATM台数を減らす一方で、コンビニATMや他行との共通化を進めれば大幅なコスト削減が可能になります。実際、三菱UFJ銀行では三井住友銀行とATMの共通化を進めています。
最近、現金の中でも特に銀行業務のお荷物とされているのは硬貨です。店頭だけでなくATMの受け入れでも有料化することで「とにかく銀行には硬貨を持ってきてほしくない」という制度へと変更しています。結果として庶民の大きな貯金箱にたまった硬貨は行き場を失って、スーパーのセルフレジで少しずつ使う以外に処理できなくなってきています。
今回、ATMで現金を使った振り込みの手数料が2.35倍になる理由も、銀行員の給料など銀行のコストが2.35倍になったからではありません。使ってほしくないからなのです。
「これだけ高いのなら現金での振り込みはしないようにしよう」と多くの利用者が考えるようになってほしいのです。