育成年代にバルセロナの下部組織に所属していた久保は通訳を介さずに、スペイン語をほぼ不自由なく操れる。とっさの機転を利かせて、ウィットに富んだジョークで周囲も笑わせるすべも持っている。

 例えば強豪レアル・マドリードから先制ゴールを奪い、最終的には2-0で快勝する金星獲得のヒーローになった今月2日。試合後の記者会見で久保は前出の「AS」に加えて、マドリードを拠点とするスポーツ紙「MARCA」の名前も挙げながら、こんな言葉で会見場の笑いを誘っている。

「少なくとも今夜は、僕の名前がニュースに出るのでうれしいですね。明日の『AS』か『MARCA』には僕の写真が載るはずなので、思い出に残すためにも買いに行こうと思います」

 もっとも、久保はスペインの地だけでコミュニケーション能力を全開にしているわけではない。昨年のカタールワールドカップを含めて、森保一監督の下で招集されてきた日本代表で誰よりも母国語を駆使し、周囲としゃべっているのが実は久保という状況も付け加えておかなければいけない。

期限付き移籍を繰り返すも
爆発的なゴール数は残せず

 話を冒頭の2019年6月に戻せば、当時の久保はJ1のFC東京からヨーロッパを代表するビッグクラブのレアル・マドリードへ電撃移籍。日本サッカー界を騒然とさせたばかりだった。

 しかし、白い巨人と形容される強豪クラブのなかに、居場所を築くのは容易ではなかった。3枠しかないEU圏外枠がブラジル代表選手を中心に常に埋まっている状況に、まだまだ成長途上という評価が追い打ちをかける形で、久保は1年目から武者修行という名の期限付き移籍を繰り返した。

 マジョルカを皮切りに2年目はビジャレアルとヘタフェ、さらに3年目は再びマジョルカへ期限付き移籍。ラ・リーガ1部の舞台で通算94試合に出場し、計6ゴールを挙げてきた軌跡を、久保は「試合数を重ねているのは、いいことなのかなと思いますけど……」と振り返ったことがある。

 特に2年目はビジャレアルの戦術に合わず、冬の移籍市場で期限付き移籍先を変えた。異例ともいえる久保の要望を受け入れ、ヘタフェへと送り出してくれたマドリードへ感謝しながら、久保はこんな思いを抱くようにもなった。「シーズンごとにプレー環境を変えるのがつらかった」と。

 そして、4年目を前にしてソシエダからオファーが届いた。しかも、期限付き移籍ではなく完全移籍で迎え入れたいと打診してきた。果たして、マドリードと決別する上で、久保のなかで迷いは生じなかった。戻る場所がなくなる、まさに退路を断つ決断を久保はこう振り返っている。

「期限付き移籍にはいい面も悪い面もあります。悪い面はたとえ100%の力を出し尽くしたとしても、周囲からは『どうせレンタルだろう』と見られてしまうこと。今シーズンはそうではなくなるし、このクラブで腰を据えてプレーすることができる点で、僕は非常にポジティブに考えています」