健太郎さんの選択は賢明だ。というのも、家族がしらみつぶしに精神科病院に電話をかけまくったとしても、半分には受け入れ困難と断られ、残りの半分も「受け入れを検討するのに必要な書類を送ってくれ」と言ってくる。しかしほとんどの人は、送るべき必要書類、すなわち、診療情報提供書と検査データを入手するすべを知らないのが現実である。

病医院との折衝は、専門家以外にはハードルが高い

 父親がレビーであると診断した病医院にコンタクトを取って、「父親を入院させたいので、診療情報提供書と検査データを用意してほしい」と依頼すればいいのだが、これもなかなかのハードルなのだ。

 当該病院を特定できたとしても、すんなりと「はい、分かりました」と返答してくれる病院はまずない。それらの書類を必要とする理由と、それを請求している電話の主の素性を求められる。求めに応じても、なんだかんだと理由を付けて書き渋る医師もいる。患者や家族の求めで当該書類を作成することは主治医の義務であるにもかかわらず、である。父親のことで頭を抱え、精神的に追い込まれている身になれば、こんなやりとりをしている間に、家族のほうが気が変になってしまっても不思議はない。

 だから、費用を払ってでも、専門の誰かに代行してもらったほうが話は早い。勉三さんの場合は受診拒否が激しく、レビーと診断した診療所にも、その後まったく通っていなかった。担当医は、「1年以上も診察していないので(診療情報提供書を)書けない」「一度、受診しに来てくれたら書く」「受け入れを検討してくれている医療機関に直接送るのであれば書いてもいい」などと書かない言い訳を並べていたが、力ずくで押し切って、健太郎さんが翌日受け取りに出向く、ということで決着した。

嫌がる本人を病院に連れていく最終兵器

 結果的に、丸3日、都内の精神科病院を片っ端から当たり、ようやく受け入れ病院が確定した。医療保護入院の日時が決まり、健太郎さんは泣いて喜んでくれたのだが、一難去ってまた一難。今度は、医者嫌いの父親をどうやって病院まで連れていくかで途方に暮れることに。

 我々の提案で、最終的に民間の救急搬送サービスを利用することになった。家族が家の鍵さえ開けてくれれば、3人一組のチームがあの手この手を駆使して本人を簡易ベッドに固定し、指定の病院まで運び届けてくれる。