激安株を狙え#3

東京証券取引所の有識者会議から飛び出した、PBR1倍割れ企業への強い批判。トヨタ自動車、ソフトバンクグループ、そして三菱商事など日本を代表する企業が続々と自社株買いなどの株主還元策強化を打ち出した。トヨタやメガバンク、大手商社を長年苦しめてきた「割安」という課題は一掃されるのか。特集『激安株を狙え』の#3では、PBRを単純な目標と見なす姿勢を戒める視点も含めて、今後のニッポンの株式市場を占う。(ダイヤモンド編集部 岡田 悟)

PBR1倍割れは「落第点」との糾弾も
どうなるトヨタ、メガバンク…

「本フォローアップ会議の目的は、市場区分見直しの成果の発現を急ぐためには、何が必要であるのかを見極めることであると認識しています。さまざまな課題がありますが、(中略)PBR1倍割れの企業が多いことにメスを入れない限り意味がないと感じています」

 2022年7月29日、東京証券取引所のプライムやスタンダードなどへの市場区分の見直しについて、今後の在り方を話し合う「フォローアップ会議」の初回の席上、会議のメンバーで、オムロンの安藤聡取締役は、こう口火を切った。

 プライム市場の基準を満たさないが経過措置として残留している企業の扱いなどを話し合うのがこの会議の主旨だが、安藤氏はあえてPBR1倍割れ問題について言及したという。ダイヤモンド編集部の取材に「プライム市場の上場企業の約半数がPBR1倍割れとなっている状況は“不都合な真実”であり、経営者側から言い出しにくい。素通りしては意味がない」とその意図を語った。

 PBR(株価純資産倍率、Price Book-value Ratio)とは、企業の純資産に対する時価総額の割合を示す。株価が割安か割高かを示す指標として用いられる。

 会議では他のメンバーも安藤氏に呼応し、アストナリング・アドバイザー代表の三瓶裕喜氏(元フィデリティ投信ヘッドオブエンゲージメント)からは「(PBR1倍割れは)いわば市場から落第点をもらっているということ。改善にコミットメントしてくれないと困る。2年ぐらいでできる」と促した。

 ところが、トヨタ自動車や3メガバンク、大手総合商社といった日本を代表する企業でさえ、実はPBRが1倍を割り込んでいる。メガバンクは23年3月期、過去最高益に近い業績となったが、それでも落第点ということになってしまう。

 こうした流れを受けてであろう、トヨタや三菱商事、ソフトバンクグループやオリックス、長年割安銘柄と指摘されてきた大日本印刷などが続々と自社株買いを表明。キャッシュを過剰にため込んでいると指摘されてきた傾向が大きく変わりつつあるように見える。

 一方、フォローアップ会議を開催してきた東証や金融庁などは、PBRにばかり注目が集まる状況に戸惑いを隠せず、自社株買いなど一過性の施策でPBRを引き上げることを戒める。

 とはいえ、日本のプライム市場の半数近くがPBR1倍割れという状況は、ほとんどが1倍を超えている米国と大きく異なる。高収益の継続で投資家の期待が集まる好循環に向けて、“激安ニッポン株”を脱する契機となるのかどうか、見ていこう。