ゴールデンウィークも終わり、「5月病」に悩まされる人もちらほらいるのではないだろうか。学生であれば入学式、社会人であれば仕事の異動や転勤、様々な変化があっただろう。希望通りの進路に就けた人もいれば、思わぬ結果になって新たなはじまりを迎えた人もいるだろう。
この春、「選ばれなかった」ことをテーマにした書籍『あの日、選ばれなかった君へ 新しい自分に生まれ変わるための7枚のメモ』(阿部広太郎)が刊行された。4月25日に青山ブックセンター本店で行われた阿部広太郎氏と芝山大補氏のトークイベントから、一部を再構成してお届けする。

自分で自分にパワハラしていませんか?阿部広太郎さん(左)と芝山大補さん

「無駄ノート」は無駄じゃなかった

阿部広太郎(以下、阿部) 連続講座「企画でメシを食っていく」で「感動メモ」という取り組みをしています。毎回の講座の後に、その時に何を感じたのか、心が動いたのかを言葉にして、参加する人みんなで共有するという試みです。今回は「2人の感動メモ」というテーマで、人生の「選ばれなかったこと」を意識しながらそれぞれエピソードを語り合っていけたらと思います。芝山さんから、芸人時代における「無駄ノート」というキーワードをいただいています。

芝山大補(以下、芝山) 僕、お笑いを始めて、NSC(吉本総合芸能学院)に通うんです。初めの方はすごい評価されたんですよ。講師の人とかに「なんで来たの、言うことないよ」とか、ほんまにパーフェクトで。次に何が起きたらおもろいかなっていうのを、殴り書きみたいにばーって書いて、それをやったただけなのに。これもうアドバイスできひんというレベルやったんすよ。

阿部 えー、すごいですね。

芝山 その時はトリオでやっていて、お笑い超楽勝みたいな感じやったんです。NSCって「同期のネタで笑うな」って言われるんですよ。笑うってことは負けとるってことやと。で、みんな笑いをこらえてるんすけど、笑ってまうみたいな感じで。うわ、これ絶対売れるやんと思ってました。でも卒業して、ライブでお客さんの前でやるんです。そうすると、ウケなくなるんですよね。なぜなんかなと思ったら、僕は意味不明なことをずっとやってたんですね。芸人とかお笑い力が高い人っていうのは、ネタを頭の中でツッコミながら見てるんですよ。だから意味不明なことをやっても笑ってくれるんです。でも、お客さんはそうじゃないんです。しっかりと笑うポイントを示さないと笑わない。だから、ツッコミなどが必要だったりする。そんな構成が必要なことを僕は知らなかったですよね。そこからオーディションとか出るんですけど、選ばれないです。全然受からない。でも同期の三島くん(現、すゑひろがりず)は、当時、バルチック艦隊っていうコンビで、オーディション受かったりするんです。イナちゃん(現、アインシュタイン)もそうですけど、同期がどんどんオーディション受かっていくんです。

阿部 どんどん先に行かれちゃってる感じですかね?

芝山 僕も養成所の時は評価されてたのに!って思って、でも全然差が埋まらないんです。この差はなんなんやろ?って考えて。で出した結論が「客がアホなんや、アホが見てるからわからんねや」って思い込んで、選ばれなかった事実に向き合わなかったんですよ。先輩のネタも見て勉強してなかった。どれだけ天狗やねんって今では思います。それである日、先輩のライブを見に行く機会があって、ガクテンソクさんとか、BKBさんとか、藤崎マーケットさんのネタを見るんです。

阿部 すごい人たちですね。

芝山 当時の劇場メンバーは笑い飯さん、麒麟さん、千鳥さん、のトップ組。その下がジャルジャルさんたちがいる1軍、1軍以下は入れ替え戦をしないといけない。その時の2軍には、ガクテンソクさんとか、BKBさんとか、藤崎マーケットさん、そういえばムーディ勝山さんもいましたよ。ちょうどその時に「右から受け流す~」のネタができたばっかりで、そのネタで地鳴りするぐらいウケてました。

阿部 すごい。

芝山 僕もその人たちのネタを見て腹抱えて笑ってたんですよ。自分がやってる意味不明なネタよりも、この人たちの方がおもろいって感じてしまった。お客さんも笑ってる。これってなんか言い訳できる? みたいな感じになるんです。そん時に初めて負けているって気づいたんすよ。ネタがわかりやすくても、おもろいネタは作れるぞ。俺、ネタをわかりにくくして、同業者にだけウケて満足してたけど、しっかりとお客さんが笑える、わかりやすいおもろいネタに向き合わなアカンって思ったんです。そっからどうしようって考え始めたんです。お笑いってどうやったらおもろくなるんだろうと。

阿部 それで、どんな取り組みを?

芝山 お笑いって何をすればいいのかわかんないんすよ。筋肉つけたかったら筋トレをしたら良い。だけど、お笑いは違う。ネタがおもろくなるトレーニングは誰もわからないんで。自分でどういう努力が効果的になるか? を考えないといけない。そこで、僕が考えてやったことは、先輩のライブを見に行ってウケてるところと、スベってるところを、ひたすらノートに書いていくことだったんです。それをしてもしばらくの間、ずっとオーディション受からない日々は続きました。でも、とにかく何かやらないと不安やったんすよ。メモを取ってたらその不安は少し落ち着くんですよ。そんなある日、2軍にいてる尊敬してる先輩が「メシ行こうか」って誘ってくれて。その時に「こんなノート書いてるんですよ」ってその先輩にノートを見せたら、「そんなん意味ないねん、無駄や、捨てろ」って言われました。続けて「お前らのネタ見たことあるけど、お前ら一生地下芸人やから、そもそもメモなんて取る必要ないねん、売れへんから大丈夫、劇場にも入られへんよ」って…。自分が尊敬した人に、そんなこと言われて、マジで心がキツくなりました。

阿部 おお、キツいですね。

芝山 自分の努力は間違ってんのかな? と思って、でも、何もせえへんのは怖いから、ずっとメモは取り続けてて。そこからメモを見て分析して、「この笑わせ方ってこういうことちゃうかな?」と仮説を立てて、自分たちのネタで検証する。それを繰り返していくと、ちょっとずつお客さんが笑ってくれるようになって、最終的にドカーンってウケるようになりました。それからトントントンっとオーディションを勝ち上がって、その先輩と入れ替え戦をやった末、なんと劇場メンバーになれたんですよ。その時に、例の先輩が僕の相方を飲みに連れていったらしくて、その時に「あの芝山ってやつすごいな」って言ってくれてたらしいです…。その言葉を相方から聞いてすっごい感動したんです。それと同時にその先輩への感謝の気持ちが湧き上がってきて。だって「ノートを捨てろ」とか、「一生地下芸人や」とか言われてへんかったら、多分そこまでの熱は出てなかったと思うんで。

阿部 奮起したんですね。ちゃんと無駄じゃなかったってことですよね。

芝山 その人からするとメモを取る行為は無駄なのかもしれないです。その人は、すごい才能があるから。だけど、自分がその努力をするとどうなるか? なんて誰にもわからないじゃないですか。だから、誰に何を言われても、何クソッと思って、強い気持ちでやり続けるっていうのは、すごい大事やなと。その人からしたら「無駄ノート」かもしれんけど、俺からしたら「無駄ノート」ではなかったという話ですね。