前説が抜群にうまかったコンビとは
それは、漫才コンビ・和牛の2人です。彼らに番組の前説をやってもらったときのことです。番組収録の前に、注意事項などを説明してもらうのですが、普通であれば、
A:「注意事項があります」
B:「よく聞いてくださいね」
程度で進めていきますが、ややカタイ言い方で空気も冷めてしまいます。そこで彼らは、
川西:「注意事項があります」
水田:「守らないと今日は家には帰れません」
川西:「帰したげて、ずっとスタジオにおられても迷惑やし」
と自分たちの漫才スタイルを交えながら注意事項をはじめたのです。自然とお客さんも耳を傾けてくれて、空気も温まる。最高の形です。
こういったことができるようになってはじめて芸人としてのキャリアを歩みはじめます。わかりやすい例として前説を挙げましたが、これは芸人だけしかいない楽屋でも同じです。
若手芸人は舞台裏でも先輩たちやスタッフに対して「どうしたら喜んでもらえるのか」を考え続けて成長していきます。当然、舞台裏なわけですから面白いことを言うのだけが正解なわけではなく、ときには先輩やスタッフが興味のありそうな話題を提供してみたり、ケータリングの水をさりげなく渡したりして、あの手この手で「人を喜ばせること」を覚えていくのです。
つまり、さりげない気遣いを極限まで高めていくのが芸人としての第一歩です。少し長くなりましたが、冒頭でも話したようにこれはビジネスの世界でも同じなのではないかと思います。これまで多くのビジネスパーソンと仕事をしてきましたが、どの業界でも成功している人は、仕事ができる云々の前に抜群に「気が利く人」ばかりでした。自分のことばかりで、まわりの人が何を求めているのか気がつかない人が活躍できないのは言うまでもないでしょう。
「自分のやりたいこと」を考えるのはもちろん大事で、絶対にやめてはいけないことですが、その前に「相手のことを考える」ステップが隠れていることを覚えておいていただけると嬉しいです。