そろそろお開きというところで、末席の新入行員がビール箱に上りエールを切る。負けた支店が先に切るのが流儀。勝った支店に敬意を表し、支店名を盛り込みフレー、フレーとやるのだ。続いて勝った支店長が応え、エール交換が成立する。この一連の流れは、ずっと続いてきた伝統のようだ。
目黒冬弥 著
大事なことを忘れてはいないか。赤塚代理のけがについて誰も口に出さない。「赤塚さん大丈夫かなあ」と心配する者がいない。決められた日程ありきで野球大会を遂行する感覚は奇妙だ。組織の異常さをつくづく感じた。
私の1年下の後輩はこうした野球大会を経験したのち、2年目を迎える前に退職を決めた。彼は公認会計士を目指すと言っていたが、今頃どうしているだろうか。
バブル崩壊後、不良債権問題にあえぐ都市銀行各行は単独での生き残りに限界を感じ、次々に統合・合併を進めた。公的資金を注入されたメガバンクは、公約とされた不良債権処理とともにこうしたグラウンドや保養所施設を売却。同じくして、支店対抗野球大会も長い歴史に幕を閉じた。
時代の変化はもちろんだが、グラウンドを借りてまで続ける意義はなかったのかもしれない。さらにいえば公的資金、つまり血税を注入してもらいながら、行員が野球大会に興じている姿を、当時はやった写真週刊誌にでも報じられたら、それこそ社会の批判の矢面になっていたろう。
この銀行に勤め続け、悲喜こもごもいろんなことが起きた。さまざまな同僚と出会った。そして今日も私は懸命に働く。この銀行に感謝し続けている。
(現役行員 目黒冬弥)