電力バトルロイヤル#3Photo by Masataka Tsuchimoto

東京電力ホールディングスや関西電力の凋落によって電力業界で存在感が際立つ「三男坊」の中部電力。だが、大手電力4社のカルテル事件に名を連ね、275億円もの課徴金納付命令案が出された。さらに、東邦ガスとの間でもカルテル疑惑がくすぶる。特集『電力バトルロイヤル』(全6回)の#3では、揺れる社内の権力構造を解き明かすとともに、カルテル事件の余波で混沌とする次期社長レースの有力候補3人の実名を明かす。(ダイヤモンド編集部 土本匡孝)

4月1日付人事は「林社長の続投」も
役員人事から浮かび上がる真意

 木を見て森を見ず――。

 中部電力は1月30日に4月1日付の役員人事を発表した。同日、名古屋市にある中部電力本店で開かれた定例会見では、上記のことわざ通りの質疑が行われた。

 中部電は大手電力4社(他は関西電力、九州電力、中国電力)が絡んだカルテル事件の行政処分が間近に迫っている一社だ。2022年12月に公正取引委員会から提示された課徴金案は実に275億円にも上り、中国電の707億円に次ぐ額だった。今春にも正式な課徴金納付命令が出る見込みだ。

 周辺取材を総合すると、21年4月に公取委の立ち入り検査を受けて以降、中部電は容疑を否認し続けてきたとみられる。課徴金の額の大きさもそれを示しているといえる。

 加えて、中部電には東邦ガスとの間でもカルテル疑惑がくすぶっている。それ故にカルテルが結ばれていたとされる時期に販売トップや経営トップを務めた林欣吾社長の進退に注目が集まってきた。

 そして、注目の4月1日付の役員人事には、林氏の続投が盛り込まれた。当然、定例会見では進退に関して、記者からの質問が集中したが、林氏は「コメントを差し控える」などとかわした。

 だが、今回の役員人事の最大のポイントは林氏の続投ではない。俯瞰して、初めてその隠された真意に気付く。

 実は、次期社長の最有力候補を含め、約30人の役員人事でほとんど異動がなかったのだ。ある中部電関係者は「例年と比べて明らかに異常ですよ。何か起こったときには大規模に代えないといけないので、今は代えられないということ」と解説する。

 この関係者が指摘する「何か」とはもちろんカルテル事件のことで、複数の役員が引責辞任せざるを得ない事態だ。うがった見方をすれば、この1年以内にそうなることを見越した人事ともいえる。

「タイミングを見計らって林社長の首を差し出すつもりではないか。彼らもしたたかですよ」。ある電力業界関係者はそうみる。差し出す首は一度で済むように残しておく。そんな魂胆を感じ取っているのだ。

 カルテル事件を巡り中部電の権力構造は揺れている。次ページでは、絶対的な権力を握るキーパーソンを中心に混沌とする権力構造を解き明かす。また、カルテル事件は次期社長レースの行方にも影を落とす。カルテル事件で林氏が「引責辞任する」もしくは「引責を免れる」とのシナリオ別の社長候補の実名も明らかにする。