この国防七校に関しては、海外でも検挙事例がある。
例えば、米国では2018年6月、中国の国防七校の一つである西北工業大学が、対潜水艦戦闘に使用可能なハイドロフォン(水中聴音機)を入手するための共謀を行ったとして、米国輸出法違反で起訴されている。
また、国防七校に限らず、中国の技術窃取の手法は巧妙であり、豪州のシンクタンクが指摘しているように、中国人民解放軍関係者が秘密裏に留学生や研究者の身分で日本の大学や研究所に入り込んでいる可能性があり、善意の人物(ビジネスパーソンなど)が後に中国人民解放軍関係者に接触され、支配下に入って行動する事例も相当数確認されており、そのスキームは複雑化している。
問われる企業・研究機関の
技術情報管理
今回適用された不正競争防止法は、「営業秘密」の侵害として(1)秘密管理性、(2)有用性、(3)非公知性を満たす必要がある。だが、企業や研究機関の事情により満たされていない場合があり、同法の適用が断念されることも少なくないのが実情だ。
特に(1)の秘密管理性は、主に「秘密保持のために必要な管理が実施されていること」と「アクセス者にとって、それが秘密であると認識できること」が必要とされるが、企業側で適切に管理されていない場合も散見される。
ただし、本件はさすがに研究機関ということもあり、(1)の秘密管理性をクリアできていた。
しかし、現実問題として、経済安全保障が声高に叫ばれる中、諸外国による日本への技術窃取などを試みる危険性およびリスクはなかなか顕在化しないため、危険な機関や組織や具体的な手口まで広く認識されていないのが現状だ。
実際、一部の日本を代表するグローバル企業でさえ、中国リスクについていまだ感度が低い状態だ。
今後は、これまでの情報セキュリティの概念から一歩踏み込み、経済安全保障の観点での情報セキュリティ・技術情報管理のあり方を再考しなければならない。
そこには、これまで絵空事のように思われていた「中国によるスパイ」や「国家による合法的手段による技術窃取の手法」もリスクシナリオとして捉えられなければならない。
本件で言えば、国防七校という“外事性”を有する機関の出身者であり、かつ教職者であったとの情報があれば、まず入り口の段階で制限すべきで、制限に掛からずにかつ産総研に入所した後も、当然セキュリティー・クリアランスの概念と同様に、アクセス権をコントロールすべきである。
だが、本件では、この2段階のコントロールが機能していなかった。
また、権容疑者が会長を務める中国企業の信用情報は、民間でも中国で取得でき、その内容を精査することも可能であっただろう(役員の情報など)。
ちなみに宇宙航空研究開発機構(JAXA)では、先端技術の保護や重要物資の供給網確保といった政府の経済安全保障強化を踏まえ、軍事転用可能な技術情報などの流出を防止するため、「宇宙科学研究所」の外国人研究者や学生の受け入れ方針において、中国は一部の特例を除いて排除するほか、ロシアや北朝鮮については例外なく不可と位置づけ、既に運用を始めている。
では、研究所があずかり知らぬところで、在職中に、国防七校や中国人民解放軍系の組織と関係を有するに至った場合、検知できるのであろうか。