一緒に価値を生み出せるコミュニティをつくる

──そうなると、「どこに就職するか」という考え方自体が古くなりますね。職に就くというより、一緒に問い続けて価値を生み出せるコミュニティに属する、という考え方のほうがしっくりくるような気がします。

佐宗 そこはいいポイントで、作家の平野啓一郎さんが『私とは何か──「個人」から「分人」へ』(講談社現代新書)という本に書いているように、人って環境ごとに異なる自分がいるんですよね。それを平野さんは「分人」と呼んでいます。

 BIOTOPEにも、自分の所属先や活動を複数に分散させているメンバーが普通にいます。たとえば、日中6割はうちの会社の仕事をして社会との接点を持ち、残り4割の時間は漫画やイラストを描いて販売したりしている。デザインコンサルティングを通じて社会につながることも、イラストを描いて販売してファンとつながることもどちらも重要だから、そのバランスをとりたいっていう働き方です。特にクリエイティブ職であればあるほど、そういう傾向が強いように思います。

 人のアイデンティティも複数あって、それぞれの自分がそれぞれに合った場を持つことで全体性を保つという感覚が、特に今の若い世代には強まっているように感じます。ですから本にも書いたように、組織も意義を生む場に変わっていかなければいけないんですよね。個人も複数の意義を持っているので、それぞれの意義に合わせて価値を生み出せる場を選べるようになる未来が自然な形だと思います。

──本の中に、「新規事業に投資する余力はない」という経営陣がいる会社ほど人的資本の価値がわかっていないという話が出てきます。でもこれ、ビジネスの世界では“あるある”な話ですよね。

佐宗 そういう会社は、将来的に生み出すべき価値の源泉は「人」であり、人材こそが組織文化をつくる知的財産であるという認識が欠けているんでしょうね。対照的なのは、丸井グループのように「人の成長=企業の成長」という理念にもとづいて、人材への投資を新規事業につなげてリターンを生み出す仕組みをつくる企業です。丸井グループは、価値を創造できる組織の在り方を象徴しているいい例です。

 理念を体現するためにはイノベーションが必要ですから、そこが本気度を問われるところなんですがなかなか難しい。ある金融会社がパーパスを策定して、人事評価のときも「マイパーパスを話してもらいましょう」と言うところまで決めたんです。そこまではいい取り組みだなと思ったので、「事業はどうするんですか?」と聞いたら「それはこれから考えます」と。本気度が足りないなと思ったこともありました(笑)。

 丸井グループやスープストックトーキョーは、事業の中でパーパスをどうしていくかちゃんと語っていますからね。社員をエンゲージするための方便として、概念としてだけの企業理念をつくっている会社には、将来的に価値を生み出せる優秀な人材は集まらなくなるでしょう。

※本稿は『理念経営2.0──会社の「理想と戦略」をつなぐ7つのステップ』(ダイヤモンド社)の著者インタビュー・全4回の第4回です。

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