「リノベ物件」供給の裏側で
暗躍する仲介業者

 その答えを述べると、格安物件の販売案件は「不動産仲介業者」から持ち込まれる場合が多い。相場の1~2割引き程度で「すぐ買ってくれ」と依頼されるのだが、対象になる物件にはいくつかのパターンがある。

 その一つが、販売期間が長引き、相場価格では買い手がつかなかった物件だ。

 中古物件の売り主に対して、仲介業者が「高値で売れるから」と勧誘し、自社でしか売れない契約(「専任」と言う)を結ぶケースがある。

 しかし、販売価格が高過ぎる物件はいつまでたっても売れない。しびれを切らせた売り主は次の転居先が決まっているため「価格を下げてもいいから」と早期売却を望むことになる。

 これを意図的にやることを業界用語で「売り主を干す」と言うが、情報格差を利用した“素人だまし”に近い手口だと筆者は問題視している。こうして相場より安い価格まで値下げされた物件を、リノベーション事業者が買い取っているのだ。

 なお、物件に買い手がつくと、仲介業者は売り主・買い主の双方から3%、合計6%の仲介手数料を取った上で引き渡すのだが、これを「両手取引」という。

 大手仲介業者の場合、この両手取引が案件全体の約5割を占める。仲介業者の営業マンは、この両手取引の案件を多く抱える人ほど優秀で稼ぎがいいとされる。

 物件価格に話を戻そう。販売価格が割安になるもう一つのパターンは、売りに出された賃貸物件にまだ居住者がいる場合だ。

 賃貸物件のオーナーの中には、住人との賃貸契約が残っているにもかかわらず、「すぐに現金化したい」といった理由で早めに物件を手放そうとする人がいる。

 だが基本的に、賃貸物件は投資商品としての側面が強く、利回り(投資額に対するリターン)の良さが買い手にとっての魅力になりやすい。買い手をつけるために、売り手側が物件の利回りを良くしようとすると、物件価格(=投資額)を安くするしか方法がない。

 理論上は、オーナーは賃借人(住人)が退去するまで待ってから、「賃貸用」だった物件を「自宅用」として高く売ることも可能である。住人が出て行ってから平均3カ月もあれば、通常は契約までこぎ着けられるものだ。

 にもかかわらず、売却を焦ってしまうと不動産事業者の思うつぼである。

 仲介業者は販売を任された賃貸物件を、リノベーション事業者に売れば手数料収入を得られる。買い取った側の事業者も、住人が出て行ってから改装して「自宅用」として販売すると、仕入れ値より高く売れる。

 オーナーは住人の退去を待てば良かったものの、欲の皮が突っ張り過ぎたことで大損したといえる。