どこでも“同じ感じ”で走れる
運転が楽で疲れない
次に、実車でキャンプ場内の砂利道をゆっくり走ってみた。
すると、乗り心地でゴツゴツ、ガタガタという感じはなく、かといってクルマ全体がゆっさりしているわけでもない。
ハンドル操作に対して、まるでオンロードで走っているような感じで、砂利道での走行に対する緊張感がない。誰でもがごく自然な感じで乗れる、といった表現が妥当だろう。
これを技術的な視点で解析すると、eKクロススペースよりも大径なサイズのタイヤ「165/60R15」にし、最低地上高を10mmアップ。また、ショックアブソーバーの構造を変更した上で、ショックアブソーバーの縮み側を柔らかめに、伸び側を引き締めるチューニングを施した。それ以外のサスペンション関連部品である、スプリング、スタビライザー、ブッシュなどは変更していないという。
こうした足回りの微調整が、デリカミニが目指す商品性との相性が良く、それによって「デリカらしい」走りの世界観を実現しているのだ。
いうなれば、コストパフォーマンスが高い新型車の商品企画である。
その後、一般道路から高速道路の試乗に移った。
すると、路面の状況が砂利道から舗装路になり、また走行する速度域が変わってもデリカらしい世界観、ハンドリング、そして乗り心地を、砂利道で走った場合と同じように感じる。
ゆっさりとか、どっしりといった感じでもなく、ドライバーとして自然体で乗れるから、運転が楽で疲れない。速度域が上がるとパワーステアリングはしっかり感が増し、また運転支援システム「マイパイロット」の作動時のクルマの動きも実に自然だ。
パワートレインはeKクロススペースを継承しており、走行中の音や振動で気になるところはない。オフローダーだと、タイヤと路面との音が気になるようなイメージも抱く人がいるかもしれないが、デリカミニのタイヤはそうした選定をしておらず、オンロードとある程度までのオフロードを併用することを目的としている。
自動車産業大変革に本格突入
他メーカーも気にする三菱のキーファクター
最後に、三菱の事業全体の中でのデリカミニの存在について私見を述べたい。
試乗後、旧知の三菱関係者と、デリカミニ開発の意見交換をしながら、昨今の自動車産業界の大変動について話が広がった。
筆者はこの試乗会の1週間ほど前、トヨタ自動車の東富士研究所で実施された「トヨタテクニカルワークショップ2023」に参加した。そこでは、今後5年以内に多様な次世代電池や次世代プラットフォームを搭載するBEV(電気自動車)の技術の詳細説明や、水素燃料車や燃料電池車などさまざまな次世代車に試乗してきた。
ここまで大規模かつ詳細な量産を前提とした次世代技術をトヨタがメディア向けに公開したことは過去になかったと思う。そのため、ワークショップの現場では、次世代に向けた危機感ともいえるトヨタの本気を感じた。
背景にあるのは、いわゆる「100年に一度の自動車産業界大変革」である。
一方で、トヨタ以外の自動車メーカー幹部らと意見交換していても「これから先2~3年以内の経営のかじ取りで、自社ブランドとして存続できるかどうか決まる」という見解示す人が少なくない。
そうした業界全体の大きな流れの中にあって、三菱はルノー・日産・三菱アライアンスにおいて今後、どのようなブランドを目指し、そして事業を継続的に成長させていくのか?
その観点で、デリカミニは三菱とっての良き指標(または基準)なのではないだろうか。
ユーザーが三菱に対して求めていることをしっかり理解した上で、三菱が「三菱らしさ」を、自信を持って具現化させたモデル。それが、デリカミニなのだと思う。