日本の経営トップに求められること

 自力で航行する力を失った船が潮流に流されるかのように、わが国経済が米国や中国など大国の経済の展開に影響されるパターンが明らかに増えている。海外投資家が、日本株を「景気敏感株」とみなす傾向も強くなっている。

 日本の再成長に不可欠なのは、企業経営者が、収益を獲得できる領域を拡大することだ。それには、成長期待の高い分野で専門知識を持つ人を増やすことも欠かせない。その上で、個々人がより能動的に事業に取り組み、成果や実力に応じて評価される組織風土を整備しなければならない。

 変化の兆しは徐々に出始めている。まず、賃上げをする企業が徐々に増えている。日本経済の統計上、前年同月比で実質賃金が上昇するには至っていないものの、賃上げに対する経営トップの意識は高まっている。優秀な人材を獲得するには、より良い条件を示すことが避けて通れなくなってきたからだ。

 賃上げをするためにも、自社の強みを見直し、成長期待の高い分野にリソースを振り分ける企業も増えている。この背景には、東京証券取引所が「低PBR企業」に対して、成長加速に向けた改革の策定と提示、コミットを求めたことが挙げられる。または、半導体分野で政府が支援策を強化した影響も大きい。

 自社の向かうべき方向を明示し、個々人の新しい取り組みを積極的にサポートする――今後ますます、こうした企業経営の在り方が問われるだろう。納得できる戦略が提示された上で、内部にため込んだキャッシュあるいは低金利環境での借り入れを活用し、積極的に新規プロジェクトを実行する。日本の企業には、こうした経営風土の醸成が必要だ。

 反対に、経営者の内向き志向が変わらないと、組織の士気は停滞し、持続的な収益の拡大は難しくなる。日本の経営トップは、世界最低の「仕事満足度5%」という大変残念な現実に、真摯(しんし)に向き合ってほしい。