「うっかりパソコンを壊した」のは
「重大な過失」に当たるのか

 D社労士は続けた。

「この件では、弁償してもらう前にBさんの行為が、就業規則でいう故意または重大な過失に当たるか否かの検証が必要です」

<Bの行為が故意または重大な過失に該当するか否かについて>
○ 「故意」とは、結果が分かっていながらわざとする行為で、例えば会社に嫌がらせをする目的でわざとパソコンをたたき壊したなどのケースが該当する。
・Bの場合、もともとパソコンを壊すつもりはなく、コーヒーをこぼしたのはわざとではないので、故意の行為には該当しない。
○ 重大な過失と過失の違い
・「重大な過失」とは、わずかな注意さえ払っていれば容易に予見、回避できたのにもかかわらず、それを漫然と見過ごしたような著しい注意欠如の状態をいう。例えば飲酒運転が原因で、自動車事故を起こした場合などが該当する。
・「過失」とは、結果を予見し、結果回避が可能であったにもかかわらず、必要な注意を怠ったことをいう。
・Bの場合、コーヒーをこぼしたことは本人の不注意によるもので、過失に該当する可能性はあるが、重大な過失には該当しない。
○ 従って、Bに対して弁償金を請求するのは難しいといえる。

「損害賠償に関して就業規則に定める場合、以下の点に注意しましょう」

○ 労働基準法16条により、労働契約で企業が労働者に対して違約金を定めたり、賠償賠償額の予定をしたりしてはならないと定めている。
○ 「損害賠償額の予定」とは、あらかじめ金額を指定することをいい、例えば「会社の備品を壊したら10万円」などが該当する。
・甲社の場合「従業員が会社の備品を壊した場合全額弁償すること」としているので、損害予定額を設けていることになる。
○ しかし、損害賠償に関する項目を就業規則で定めておかないと、従業員の故意や重大な過失により会社に損害を与えた場合でも損害賠償の請求ができない。従って、甲社の例だと、「故意または重大な過失により、従業員が会社の備品を壊した場合損害賠償を求めることがある」の明記は必要である。