台湾出身、超内向型でありながら、超外向型社会アメリカで成功を収めたジル・チャンは、「静かで控えめ」は賢者の戦略であると語っている。同氏による『「静かな人」の戦略書──騒がしすぎるこの世界で内向型が静かな力を発揮する法』(ジル・チャン著、神崎朗子訳)は、聞く力、気配り、謙虚、冷静、観察眼など、内向的な人が持つ特有の能力の秘密を解き明かし、世界的ベストセラーとなった。
本連載では、本書より、静かな人がその潜在能力を最大限に発揮するためのエッセンスを抜粋・編集してお届けする。第4回のテーマは「『控えめなのに一目置かれる人』と『すぐナメられる人』の決定的な違い」だ。(構成:川代紗生)
いつも「攻撃的な人」の言いなりになってしまう
なぜかいつも、ナメられやすい……。
職場で、そんな悩みを持っている人も多いだろう。「おとなしいから文句は言ってこないだろう」と、すぐに面倒な仕事を押し付けられたり、高圧的な上司に責められたり。
とくに、相手が感情的に怒鳴りつけてくるようなタイプだった場合、「わかりました」と黙って引き受けるしかないこともある。
一方、同じように静かでおとなしいのに、なぜか職場で「一目置かれている人」もいる。どういうわけか、まわりにナメられることもなく、淡々と自分の仕事をこなすタイプの人だ。
このような、「控えめなのに一目置かれる人」と「すぐナメられる人」の違いは、いったい何なのだろうか。
感情的な相手の言いなりにならないためには、どうすればいいのだろう。
ネガティブな感情で表れる「闘争・逃走反応」とは?
『「静かな人」の戦略書』によれば、内向型は他人の感情に影響されやすいという。
相手をしっかりと観察し、言外の思惑を読み取るのが得意だが、そのぶん、相手の感情に共感しすぎて、疲れ切ってしまうのだ。
生物学者のウォルター・キャノンによる、「闘争・逃走反応」という生理学的反応を知っているだろうか。この理論によると、生物は脅威に直面すると、神経性反応や、身体的反応が引き起こされ、「闘うか」「逃げ出すか」の決断を瞬時に下すのだという。
内向型の人にも、他者が発するネガティブな感情によって、「闘争・逃走反応」が表れることがある。
強いプレッシャーを感じるなど、大量の刺激を受けた場合、相手と闘うか、逃げ出すか、どちらかを咄嗟に選んでしまいそうになるのだ。
「攻撃的な人」に言い返すのは逆効果
自分の本音をぶつけることに抵抗がない人であれば、納得のいかないことがあっても、「それは私の責任ではない」と反論することができるだろう。
しかし、感情を出し合ったりするのが苦手な内向型は、結局自分の感情を押し殺して働き続けるパターンになりやすい。
すべてを「自分が悪い」と引き受け、その結果、「あの人は何を言っても抵抗しないから大丈夫」と、軽く見られてしまいがちなのだ。
あなたにも、覚えはないだろうか。高圧的な人にワーッとあれこれ責められると、目の前の恐怖から逃れたい一心で、「私に責任があるので、私がやります」と相手の言いなりになってしまったことが。
かといって、攻撃的な相手に、勇気を出して怒鳴り返す、というのも、内向型にとっては逆効果だ。
なぜなら、内向型は、怒鳴ったことで罪悪感に襲われ、「ごめんなさい。ここまで言う必要はなかった」などと、口走ってしまったりするからだ。
「控えめなのに一目置かれる人」がやっている3つの伝え方
さて、だとすれば、どうすればいいのだろうか。
ジル・チャンは『「静かな人」の戦略書』のなかで、攻撃的な人とのコミュニケーションにおいて大事なのは、「言い返す」か「自分で責任を引き受ける」かの、二者択一的な考え方をやめることだと語る。
どちらが責任を取るのか、という押し付け合いの土俵に自分はあがらないことを、はっきりと示すのだ。「自分の立場」を明確にし、「自分がやるべきこと」と「相手がやるべきこと」の線引きをした上で、解決策を冷静に伝えることだ。
(中略)
駆け出しの身であろうが、管理職であろうが、「感情的な人」というレッテルを貼られてしまっては、決してよい結果にはつながらない。(P.158-159)
具体的には、この3つのポイントを意識するといい。
・共感をうまく伝える
・中立的な情報を提供する
・要求を伝える
たとえば、このような具合だ。
「お客様に対してすみやかに回答し問題を解決したい、というお気持ちはよくわかります。ただ、どちらの書類も修正するのに1時間ほどかかります。退勤時間直前に提出されると、今日中には対応できません。ですので、退勤前に完了させたい場合は、正午までに提出してください」
コミュニケーションにおいて重要なことは、どのように情報を伝えるかだけでなく、「自分が伝えたい情報を相手に十分に理解させること」だと、ジル・チャンは語っている。
攻撃的な人に、同じように、強い感情で返そうとしても、内向的な人が勝つのはまず無理だろう。さらには、自分まで「感情的な人」というレッテルを貼られ、まわりの信頼を失うのがオチだ。
攻撃的な人との人間関係に悩んでいる人は、まず、
「相手への共感」
「中立的な情報」
「自分の要求」
の3つを伝えることを意識してみてはいかがだろうか。
『「静かな人」の戦略書』は、内向型の人がぶつかりがちな問題への対処法を、個別具体的に教えてくれている。「おとなしい、静かな自分のままでも、力を発揮できるんだ」と、自信を持ちたい人に、ぜひ手に取ってもらいたい1冊だ。