この企業行動が転換しつつある。21年半ばから、企業の生産にかかる投入コストが急騰したと推計される。多くの企業は販売価格を据え置くことができず、値上げに踏み切った。それでも、コロナ禍で大幅に積み上がった家計貯蓄が消費を下支えしたので、需要の落ち込みは小さかった。

 こうした需給両面からの影響で、財を中心に価格転嫁が進んだ。その結果、1%の投入コストの増加がCPIに与える影響は、21年初以前は1%未満だったが、足元では1%超に高まったと推計される。

 もっとも、価格設定行動の変化が持続するかは現時点で不透明である。賃上げ機運の低下や世界景気の腰折れなどのリスクも残る。インフレを定着させるためにも、当面は金融緩和の継続が必要だ。

 インフレ下で日本銀行が政策金利を維持すれば、実質金利(=名目金利-インフレ率)は低下する。実質金利の低下は総需要の拡大を通じて、物価上昇圧力を強める。これが実質金利を引き下げ、物価をさらに押し上げる。緩和の継続でこのメカニズムが働けば、2%の物価安定目標が近づくだろう。

 今後、物価安定目標の達成が視野に入れば、日本銀行は長短金利操作を撤廃し、その後短期金利を引き上げるだろう。目標達成の不確実性は大きいが、今後の物価動向次第では、金融引き締めへの一層の警戒も必要となろう。

(大和総研 シニアエコノミスト 久後翔太郎)