経済よりも政権基盤維持が優先の習政権
最近、景気を下支えするため共産党政権が金融緩和を強化した。習政権は、銀行に融資を増やすよう要請を強めた。にもかかわらず、融資は伸びていない。中小企業を中心に資金繰りは逼迫(ひっぱく)し、その裏返しとして若年層を中心に、失業率が過去最高に上昇している。
その状況を根本的に克服するためには、習政権は不動産関連の不良債権の処理を本格的に進める必要がある。一時的に失業者や倒産企業を増やすことにはなるが、中・長期的な経済成長と社会の安定には避けて通れないバランスシート調整だ。それはバブル崩壊後のわが国経済からの教訓でもある。
ただ、最近の共産党政権の人事を見る限り、習政権が経済回復に必要な政策を着実に実行するとは思えない。習国家主席は、経済テクノクラート(技術官僚)として、半導体分野などでの米中対立時の交渉にあたった劉鶴副首相を退任させた。一方、上海のゼロコロナ政策を徹底した側近の李強氏を首相に指名している。
6月27日、李強氏は経済対策を強化する考えを強調したが、具体策には触れなかった。不動産市況の悪化が想定を上回るため、具体策を示すことができなかったとの見方もある。
また、たとえ具体策が示されたとしても、既視感のある策の強化に過ぎなかっただろうとの見方が多い。例えば、高速鉄道や高速道路の延伸などのインフラ投資、内陸部での電気自動車(EV)普及策だ。それでは、本格的な経済回復を期待することは難しいだろう。
中国のインフラ投資は、全般的には過剰になっているとみられる。国有企業である中国国家鉄路集団の22年最終赤字は、前年から拡大した。利払い費用も回収できないほど、インフラ投資プロジェクトの採算は悪化していることがうかがわれる。
現行の景気対策の効果は、一時的なものにとどまるだろう。不良債権問題の深刻さもさらに増すはずだ。それに伴い、銀行の貸し出し態度は厳格化し、中小企業を中心に資金繰りが逼迫。雇用、所得環境も悪化するだろう。財政破綻のリスクが高まる地方政府も増えることが懸念される。