これまでの舞台とは何が違うのか
何が起きたのかと私はすぐに師匠に相談に行きました。「これまでの経験を積み上げて成功したこと」「それをパターン化したこと」「ちゃんと地域がらを考えていること」など自分の考えていることを師匠に伝えました。そこで返ってきた言葉は「でも、そのパターン更新できてへんやろ。昨日は正解だったからって、今日も正解とは限らん」というものでした。私はハッとしました。
たしかに、経験がない頃は手探りだったため、常にアンテナを張ってより良いものにしようとしてました。しかし、ある程度成功するようになってくると「これが正解である」と決めつけて、情報収集などに割く時間を減らしていたのです。つまり、お客さんの好みは変わっているのにそれに気がつかないという、まさに「わかった気でいる」状態だったのです。
そのまま師匠の話を聞いてみると、師匠は自分がどんなに良いものを作ってもそれはベターであってベストではないとギリギリまで考えるようにしていました。私が言われた言葉からもわかるように本当に賢い人は自分の考えが最適だと思っていないのです。ですから、「もしかしたらこうかも」「あんなこともいいかも」と常に新しいものを柔軟に取り入れられるのでしょう。
対して私は「これがベストだ!」と知らぬうちに決めつけていたのです。そのことがわかってから常にこれまでの成功を疑うようにしました。今でも大好きなお笑いの仕事をできているのは早いうちに「本当の賢さ」を知ることができたからです。その成果なのか、私がかつてNHKの『プロェッショナル』に密着されたとき、かまいたちの山内くんがこう言ってくれました。
「普通、講師って長くやればやるほど感覚が古くなっていくんですよ。感覚がずれていくというか。でも本多先生はそれがない。ずっと新しいというか、そこが違う」
そのコメント映像を見たときに非常に嬉しかったのと同時に、仕事の仕方を教えてくれた師匠への感謝の気持ちがさらに増しました。
話は脱線してしまいましたが、真面目に仕事をしている人でもこの罠にはハマってしまうことはありますので、私と同じ過ちを犯さないよう、ぜひ意識してみてください。