不法投棄の指摘に
「俺の山だ。何が悪い」
チーターは、いわゆる車高の低いスーパーカーではなく、軍用車として開発された四輪駆動車だ。車に乗り、山を越えた辺りで、一気に視界が広がった。
「ここがうちの処理場さ。降りな」
山の尾根から谷底に向かって、何台ものブルドーザーが右に左に首を振り、ダンプトラックに載せられた大型家電、自動車、工作機械の部品、廃材、畳、レンガ、ガレキなどを投げ下ろしている。
「この谷底に処理場があるんですね?」
「ねえよ、谷底は谷底だ」
「えっ?ガレキを粉砕とかしたり、金属類を分別したり…」
「しねえな。投げて終わりよ」
「そうすると、あれじゃないですか?土壌汚染とか、地下水にダイオキシンが流れ出すとか言うじゃないですか。社会問題になってるとかよく聞きますよ。不法投棄が原因とニュースでやってました」
「不法じゃねえよ、俺の山だ。何が悪い?…まあ、ここいらに集まってくるゴミは、まともなルートで来たもんじゃねえってことぐらいは、わかるわな?」
「ルート…?」
「目黒君さ、世の中、きれい事ばかりじゃねえんだよ。俺たちがこんな仕事してるおかげで、お前たちは背広着て上等な仕事ができてるってわけだ。俺たちとあんたらは一蓮托生、しょせん同じ穴のムジナってやつよ」
一蓮托生…。
「言ってる意味わかる?目黒君はまだ若いから、わからないかな。いいかい?あんたら銀行さんはさ、ビルを建て替えたいって客に、いくらでもカネを貸すって言ったり、ここまでしか貸せないって言ったり…。そりゃあ、そうだろうさ、商売だもの。わかるよ」
ちょうどこの頃「持続可能な開発に関する世界首脳会議」がヨハネスブルグで行われていた。2002年のことだ。
「だけど貸すか貸さないかで、末端にいる下請の土建屋や解体業者、俺たち産廃なんかは、もうけさせてもらえるか、タダ働きになるか、わからんわけよ。下請だって、社員にメシ食わせなきゃいけない。だから、うちみたいなところが必要なんだろうな」
5年前の1997年には地球温暖化と二酸化炭素の排出に関する「約束」が交わされた。京都議定書だ。この日本での出来事だ。
「ダイオキシン?悪いことなんだろうなあ。悪いと思うよ。でもよ、処分してくれって頼まれりゃ、うちみたいなところがやるしかねえじゃないか?役人が決めた処分のやり方をやってたら、解体費用なんかとんでもないことになるぜ?」
一蓮托生…。
「環境ナントカだっけ?うちにはいらないってことはわかっただろ?よそを当たるんだな。期待してうちに来たか知らんが、いい勉強になったと思って勘弁してくれ」