DXにおいて、新しい技術の普及やデジタル人材の育成を進めるために有効なのが「コミュニティ」だと言われ始めている。コミュニティによって目的や環境が異なれば、運営方法もさまざま。それでも、うまく回っているコミュニティから、そのノウハウを学ぶのは成功への近道になる。今回は、ダイハツ工業の社内コミュニティ「技術研究会」を紹介する。(ノンフィクションライター 酒井真弓)
※本稿は、黒須義一、酒井真弓、宮本佳歩著『成功するコミュニティの作り方――企業の成長・変革のための実践ガイド』(リックテレコム)の一部を再編集したものです。
昭和24年に始まった「技術研究会」
熱量の高いメンバーを集めるには
ダイハツ工業の社内コミュニティ「技術研究会」の歴史は長く、その始まりは戦後間もない昭和24年にさかのぼる。令和を迎えた今も、技術研究会はダイハツ工業の技術革新の一翼を担っている。会員数は2022年4月現在、2764名。毎年度の総会で多くの活動企画を立ち上げ、部門や役職といった組織の枠を超えて活動する。ここでの出会いが、業務を円滑にしたり、部門間のコラボレーションを促進したりすることもあるそうだ。
活動企画の幹事は毎年のように変わる。2022年は新たに30人が幹事になった。昇格するタイミングで、コミュニティ運営を通してマネジメントの練習をさせるのが、ダイハツ工業の伝統となっているのだとか。
ダイハツ工業 DX推進室データサイエンスグループグループ長の太古無限さんは、2019年、機械学習研究会を立ち上げた。当初は「15人くらいでスタートできたらいいな」と思っていたが、いざ蓋を開けてみると60人以上が参加。機械学習に対する注目度と参加メンバーの意欲の高さを実感したと言う。太古さんは、熱量の高いメンバーが集まった背景に、いくつかポイントがあったと言う。
一つは、会費制であることだ。技術研究会では、活動費用として一人あたり月300円の会費を集めている。会社からの補助もあるが、自らも支払うことで、活動の自由度が増すとともに、スキルアップにより貪欲なメンバーが集まるのだそうだ。
もう一つは、社内複業制度の活用だ。社内複業とは、現在の所属を継続しつつ、社内他部署で新しい課題・業務等に就く、異動を伴わない働き方である。太古さんは、DX推進室に関心があると手を挙げた社員を集め、社内規定に則った時間内で(原則として7.75時間/週)、業務に参加してもらっている。