生涯現役を望むカズを
支援してきたとされる「キーマン」とは?

 実際、横浜FCがJ1を戦った21年シーズンのカズは、リーグ戦での出場はわずか1試合。プレー時間は後半アディショナルタイムの1分間で終わっていた。Jリーグの舞台で最後に決めたゴールに至っては、17年3月のザスパクサツ群馬戦までさかのぼる(JFLでは22年10月と11月に得点)。

 冒頭で記したように、カズ自身も体力面の衰えを自覚しているなかで、なぜ彼の獲得オファーは途切れず、プロとしてのキャリアを続けられるのか。

 引き続きオリベイレンセでプレーするいまも、実はカズの保有権は横浜FCが持つ。兄の泰年氏が監督を務める鈴鹿でプレーした昨シーズンも含めて、横浜FCから期限付き移籍で移っている。

 J1のヴィッセル神戸で構想外になっていた当時38歳のカズが、完全移籍で横浜FCへ加入したのは05年7月。そして、直前の6月には学校および病院の給食や、企業の社内食堂を展開するLEOCの関連会社が、横浜FCの運営会社の第三者割当増資を引き受けて筆頭株主になった。

 市民クラブとして産声を上げ、01年にJリーグに加盟していた横浜FCはこれを境に、LEOCを中核企業にすえるONODERA GROUPのグループ企業となり、ONODERA GROUP代表取締役会長兼社長の小野寺裕司氏が事実上のオーナーに就任して現在に至っている(現在の肩書きは横浜FC運営会社の取締役会長)。

 小野寺氏は、学年が一つ下と年齢的に近いカズの大ファンとされている。こうした関係を踏まえれば、小野寺氏が横浜FCのオーナーに就いた直後にカズが加入したのもうなずける。

 生涯現役を望むカズを、全面的に支援してきたのも小野寺氏だったとされる。オリベイレンセに関しても、昨年11月にONODERA GROUPが株式の過半数を取得。横浜FCと同じく傘下のグループ企業となり、今年2月には横浜FCの山形伸之代表取締役CEOがトップに就いている。

 その目的は、オリベイレンセがヨーロッパ挑戦を目指す日本の若手選手の受け皿となり、同時に横浜FCがポルトガルでプレーしてきた選手の窓口になること。いわば「双方向の連携」である。ただ現状では、両チームの橋渡し的な役割を果たしているのはカズだ。そして、この連携によって移籍しやすい状況になったのも、出場機会を求めるカズである。

 実は17年シーズンの開幕を前に、横浜FCにおけるカズの立ち位置を当時の中田仁司監督に単刀直入に聞いたことがある。監督就任前には横浜FCの強化育成テクニカルダイレクターを務めていた中田監督は、フロントと現場の両方の視点からカズに対して言及してくれた。

「強化の立場としては『続けられるのならば頑張りなさい』という目線でカズを見てきました。対照的に監督としては、まさに『やれよ』ですよね。彼も『グラウンドで死にたい』と言っているし、それでいいじゃないですか。横浜FCというクラブの力が、カズをバックアップしている点は正直言って認めます。だからと言って、カズがかわいそうだからそこ(現役)にいるわけではない。プロ集団のなかで、勝つために僕も彼のコンディションを見て、戦いに挑むわけですから」