サッカーに対する
真摯な姿勢は変わらず
中田氏が言及した「横浜FCというクラブの力」を「事実上のオーナー・小野寺氏の意向」に置き換えても、おそらく意味は通じる。カズが限界を認め、自ら引退を申し出ない限りは生涯契約が続く――。そうしたカズと横浜FCの関係は、実は05年7月から始まっており、これからも続いていくとみていいだろう。
だからといって、カズも横浜FCのバックアップに対していっさいの甘えを見せない。
例えば日々のトレーニングに対する真摯(しんし)な姿勢。練習開始の2時間前にはクラブハウスに来て入念に準備し、終了後は数時間をかけて体のケアを施してから帰路に就く。よく言われているサッカー中心のルーティーンを、横浜FCだけでなくすべての所属チームで地道に繰り返す。
グラウンドを離れても、ストイックな姿勢は変わらない。もともとアルコール類は苦手だが、シーズンが始まればほとんど口にしない。10%未満の体脂肪率を維持するために、外食時には出された料理の画像を管理栄養士に送り、指示を仰ぐことも珍しくない。
44歳だった昨シーズン限りで引退した元日本代表のMF中村俊輔(現横浜FCコーチ)は、最後の所属クラブとなった横浜FCでカズと共有した約2年半の日々を、晩年は痛み止めの注射を切り離せなかった自身と対極の位置に置きながら振り返ってくれたことがある。
「カズさんは本当にすごいよ。そういうもの(痛み止めの注射)は打たないし、多分、若いときからかなり意識していたんだろうね。強いよ。体も、メンタルも。だから、カズさんが近くにいると自分もまひしてくるというか。一緒にやってみな。痛いなんて言っていられなくなるから。絶対に弱音は吐かないし、それこそ引退とか辞めるとかカズさんの前でちらつかせたらもう、ね」
それでも、サッカーを含めたすべてのアスリートは、現役に別れを告げる決断を必ず下さなければいけない。スパイクを脱ぐ日を、カズ自身はどのようにイメージしているのか。
「いつかは訪れることだけど、できる限り近づけないようにしたいよね」
言葉を選びながら筆者の直撃に答えてくれたのは、京都パープルサンガ(現京都サンガF.C.)から神戸へ移籍した01年の正月だった。あれから20年あまり。いまもなお「内なる闘い」を続けるカズは、50歳になってからは、自身の現在地を次のように表現するようになった。
「やっぱりサッカーが好きだ、ということに尽きると思う。子どものころから僕はサッカーしか知らないし、サッカーしかやってこなかった。だからこそサッカーには心から感謝しているし、サッカーに対して失礼のないように全力を尽くしたい。自分の体と情熱が続く限りプレーしたい」
若かりし頃のようにドリブル、クロス、スルーパス、そしてゴールと攻撃のすべてに絡むプレーはもうできないと自覚している。横浜FCに復帰しても、チームの力にはなれない現実も受け入れている。だからこそ、ポルトガルの地でピッチに立てば、最もこだわってきたものに集中する。
「ゴールに対してどれだけ貪欲になれるか。その部分で、まだまだ伸びしろはあると思っている」
ファンからのエールだけでなく、心ない批判もカズのもとには届く。すべてを力に変えながら、間もなく開幕を迎える新シーズンへ、カズは愛してやまないサッカーと真摯に向き合っていく。