正攻法でうまくいかなければ
ダークサイド・スキルを発動
そんな折、上層部から「事業の長期計画を立てろ」とのお達しがあった。そこで自分は「当初は少し落ち込んだとしても、2〜3年後の回復を見据えた計画を立てるべきだと思います」と進言した。だが、役員からは「V字回復の勢いに乗り、強気の計画を立てろ!」と無理強いされてしまった。
この例は、現場の詳しい事情を把握していない役員と、厳しい状況にある現場との典型的な「板挟み案件」だ。著者の木村氏によると、こうした「板挟み」にあっている中間管理職は、役員に対して「正攻法」でロジカルに説明すべきだという。
具体的には、まず現状を詳しく報告する。そして「目先の黒字化ではなく長期的に見て事業価値が最大化すること」を目標とした計画を自ら練り、役員に説明する。
それで役員が納得すればいいのだが、そうでない場合もある。「そんなに弱気でどうするんだ」「頑張ればもっと数字を作れるだろう」といった、古いタイプの精神論を振りかざす上層部も、日本企業にはまだ多く存在するからだ。
この局面で絶対に避けたいのが、おとなしく引き下がり、部下に「俺は無理な計画だと思うが、上からやれと言われたから仕方ない」などと言い訳することだ。こう書くと、こんなみっともないことを言う無責任なリーダーはそうそういないのでは、と思うかもしれない。だが、上から責められ弱気になったミドルリーダーは、ついつい言い訳を口にしてしまうものなのだ。
木村氏によると、このように上層部と折り合わない場面で役立つのが、ドロドロとした人間の感情を利用した説得や懐柔などの「裏技」だ。同氏はこうした交渉術を「ダークサイド・スキル」と呼んでいる。
この事例でも、役員が納得しない場合には、必要に応じてダークサイド・スキルを発動すべきだと木村氏は言う。具体的には、役員がどうしてそこまで短期での黒字化にこだわるのかを、それとなく探る。すると「自分は3年後に引退するので、それまでに成果を上げたい」といった理由が判明する。
その事実をつかんだら、それをネタに役員を「刺す」のだという。他の役員に対し「あの人はこんなことを考えているようです」とやんわり伝え、本人をたしなめてもらうのだ。だまし討ちのようだが、それこそ戦国時代では日常茶飯事だろう。役員個人の見栄のために、事業や会社の成長、何より部下の労力が犠牲になるのは避けなければならないのだ。