広島県尾道市で妊婦への啓発チラシ
批判を受けて配布中止に
SNS上での炎上を受け、配布中止が発表されたのが、広島県尾道市が市内の妊婦向けに配布していた「先輩パパからあなたへ」というチラシだ。
市内の育児中の男性に行ったアンケート結果をまとめたもので、妻の産前・産後を振り返り、テーマ別にランキングで掲載されていた。
「妻のこういう態度(言葉)が嫌だった」という項目では、1位が「わけも分からずイライラしている」「少しのことでイライラして当たられる」で、2位が「赤ちゃんの世話で忙しく、家事ができていない」だった。
また、「妻にしてもらってうれしかったこと」という項目では、1位が「家事」、2位「育児」、3位が「マッサージ」などと書かれていた。
さらに「男女の脳の構造上の違いがあげられており、男性は理論、女性は感情に基づいて行動するという違いがあることが分かっています」という、科学的根拠がないと批判されている「男性脳・女性脳」言説も書かれていた。
この内容には批判が殺到した。育児は夫婦が共同でするものであり、現代では共働き家庭も増えていて「家事・育児は妻主導で行うもの」という意識は薄れつつある。相変わらず性的役割分担を強く感じさせる内容に拒否感を覚えた人が多かったのだろう。
このチラシには逆バージョンの、「先輩ママ」から男性に向けたものもあったようで、こちらには「夫のこういう態度(言葉)にイラっとした」の1位が「飲み会や趣味を優先させる」、「夫にしてほしいこと」の1位が「赤ちゃんの世話をもっとしてほしい」などが挙げられていた。
基本的にアンケートの設問は男女同じものに設定されているが、妊娠・出産で心身が大きく変化するのは当然ながら女性であり、その負担を抱えた状況で育児を担う女性側に「夫にしてもらってうれしかったこと」を聞くのは違和感が少ない。ただ、夫側に質問をそのまま反転させて「妻にしてもらってうれしかったこと」を聞いて、模範とするのは質問設定自体に問題があったのではないかと感じる。
この件については、すでにさまざまな批判が上がっているが、育児雑誌が行うような子育て中の夫婦関係へのアドバイスを、行政が拙い手つきで行っている点が、子育て力が衰えている国の現実を如実に反映しているようで痛々しい。
SNS上での反応の中には、出産後の女性の死因で最も多いのは「自殺」であり、その大きな原因と考えられる「産後うつ」を悪化させるような内容だという指摘もあった。
子どもを増やしたいのであれば、若い世代がいかに前向きな気持ちで出産・育児に挑めるか、つらいときに行政など頼れるものがあるかどうかが鍵であるはずだ。しかし、中高年世代の考え方にはいまだに出産・育児は苦労して当たり前、各自の努力で乗り越えるべきものといった考え方があるように感じる。
「若い層の努力や我慢が足りないから啓発が必要」といった根性論が、いまだに幅を利かせているように見えるのは気のせいだろうか。