乗客の避難という
もう一つの教訓
事故後、7月29日に鉄道ファンが撮影した列車前面展望動画に映った、当該箇所とみられる電柱が傾いているように見えるとの指摘がSNSなどで相次いだ。これについてJR東日本に聞くと「Web上の情報から電柱の状態を判断することはできないが、2022年5月の外観目視検査、2023年8月の列車巡視により、設備に異常が見られなかった」と回答した。
ただ山手線の事故でも、運転士や工事関係者が傾きを確認していながら対応が不十分で事故に至った経緯があり、点検と情報共有体制の検証は必要になるだろう。
同社は今後、管内計19万本の電柱のうち、図【2】の(2)にあるような、事故現場と同じタイプで設置40年以上のものを対象に、8月10日までに緊急点検を実施する。対象本数は現在、確認中だという。また原因究明に向けて「現地の状況を踏まえ、第三者機関等と共に調査を進め、必要な対策を講じる予定」としている。
今回の事故のもう一つの教訓は乗客の避難だ。事故列車は沿線の花火大会の多客対応のために設定された臨時列車で約1500人が乗車していた。この他に東海道線5本、横須賀線4本、京浜東北・根岸線3本の列車が駅間で停車した。
事故発生時の神奈川の気温は27~28℃。電柱の倒壊で停電が発生し、空調装置、換気装置は停止したため、JR東日本は事故発生から1時間後に降車避難を決定した。
今年1月24日のJR京都線・琵琶湖線で大雪のために立ち往生した列車に乗客が最大10時間閉じ込められた事象や、3月2日のJR川越線で信号システムの欠陥から2本の列車が単線区間に進入し、身動きが取れなくなったトラブルでも乗客が3時間閉じ込められるなど、緊急時の避難誘導には多くの課題が指摘されている。
そうした中、1時間で避難誘導に着手したのは比較的迅速な対応であったが(それでも遅いと思う方は多いだろうが)、それでも全列車の避難が完了したのは4時間21分後の午前2時45分のことで、暑い車内に閉じ込められたことで9人が熱中症などで気分が悪くなったという。これについてJR東日本は「お客さま救済に関しては、しっかりと検証を行ってまいります」と述べている。
いずれにせよ、早急な原因究明が求められる今回の事故、続報が入り次第、改めて取り上げたい。