最大の問題は、電柱はいつ、なぜ傾いたのかである。事故直後には「線路上に垂れ下がっていた架線が小田原発横浜行きの臨時列車(15両編成)の先頭車両に引っかかった。架線に引っ張られた電柱が折れ、先頭車両にぶつかったとみられる」(朝日新聞電子版)との報道もあった。
事故車両には先頭から13号車、9号車、7号車、3号車に計4基のパンタグラフが設置されている。JR東日本は6日に行った記者会見で、中間の7号車のみが損傷していることから、垂れ下がっていた架線に車体やパンタグラフなどが引っかかり、結果的に電柱が倒壊した可能性は低いと説明。また、先行列車に損傷が見られないことから、事故列車の直前に異常が発生したのではないかとの見方も示した。
では電柱が傾くとすれば、どのような要因が考えられるのだろうか。JR東日本によれば、当該の電柱は1980年に設置されたものだが、一般的に取り換え周期は60年(都心ではもう少し短くなる)とされており、特別、老朽化していたというわけではないようだ。
車両と接触した電柱は線路上で折れた状態で発見されたが、元々折れていたのか、接触後に折れたのかは調査中とのこと。電柱の折損は大地震など災害によるものを除けばほとんど見られないが、仮に折れるとしたら負荷のかかる根元の可能性がある。根元から折れても架線と支線に支えられているため倒れないが、図のように架線と支線の力のかかりは違うので線路側に傾く。
2015年に起きた
電柱倒壊事故の原因
JR東日本は2015年にも山手線秋葉原~神田間の電柱が倒壊する事故を起こしている。
この事故では電柱の建て替え工事の過程で不適切な施工があり、架線に接続された電柱を支えるため、支線で接続された電柱(図【1】の「本件6号電柱」)に過度な負荷がかかったことで基礎ごと転倒した(幸い車両との接触はなかった)。
今回の電柱は、地面を掘削してコンクリートで固定する標準的なものであり、山手線事故の電柱とは構造が異なるが、図【2】の(2)「構客止2」に示す、端に設置された電柱だ。架線に引っ張られる力を受け止めるため、反対側は支線で地面に固定している(図【2】の(1))。
事故現場の架線は、東海道線と東海道貨物線を結ぶポイントに沿って斜めに設置(図【2】現場略図)されているため、もし支線が切れるなり、抜けるなり、受け止める力が弱まれば、電柱は線路側に傾いてしまう。あるいは電柱が根元から折れる、抜けるなどした場合も、力の釣り合いの関係から電柱が斜めになり線路を支障することも考えられる。当該電柱は折れた状態、支線は破断した状態で発見されたが、元々折損、破断していたのか、接触の衝撃でそうなったのかは調査中とのことだ。
JR東日本によれば電柱は3年に1度の目視点検と、5日ごとの列車巡視(運転席に添乗し目視で異常がないかチェックする)を行っている。当該の電柱についても事故3日前、8月2日の列車巡視で「異常はない」と判断されていた。