サンドバッグ状態だった旅館業に健全な防護壁
以前の旅館業法において、“原則的に宿泊拒否の禁止”が定められていた背景に関して、厚労省担当者は「戦後の混乱期に、宿泊を拒否されて行き倒れや野宿を防止する観点からできた」と説明している(※参考:弁護士ドットコムニュース)。
現代では、行き倒れがないとは言わないにせよ、戦後の混乱期からは大きく変わっている街の風景である。もし本当にその言葉通り、戦後の混乱期ベースで定められていた法律なら、さすがに少し現代の社会情勢を鑑みた調整が施されてもよさそうだ。
ということで改正の要望が出されていたのだが、今回の改正のきっかけとなったのは新型コロナのまん延防止対策だった。
コロナ禍で「感染対策をしない客の宿泊を断らせてほしい」という業界の要望に対し、いくつかの団体から「感染症患者への差別・偏見を助長する」といった反対意見も出た。そして紆余曲折あり、新型コロナも5類となり、要は「ものすごい迷惑な客は宿泊をお断りできる」という内容の改正案になって落ち着いた。
この「ものすごい迷惑」というのがポイントで、現段階では「ものすごい」がどの程度を指すのかわからず、曖昧なのである。とはいえ改正法第5条の2に追加されている通り「厚生労働大臣が指針を定める」とあるし、今後判例などもできていくであろうから、具体的な内容や指針は徐々に明確になっていく見通しである。
肝要なのは、これまで迷惑客に対してなすすべなくサンドバッグになるしかなかった旅館業者が、改正法によって後ろ盾を得たことであろう。解決のための一歩を踏み出せたというのがとにかく大きい。