一方、心肺機能に比べて、大きく衰えるのが、筋肉です。70歳になると、25歳時と比べて、全身の筋肉量が平均30%も減少します。

 筋肉が落ちると、さまざまな問題が生じます。筋肉は、人間の体のなかで最大の「発熱機関」なので、体温(平熱)が下がります。すると、免疫細胞の活動が弱まり、ガンにもなりやすくなるのです。

 むろん、筋力が落ちると、「サルコペニア」になりやすくなります。「サルコペニア」は、加齢によって、筋肉量が落ち、身体能力が下がった状態のこと。ギリシャ語で筋肉を意味する「サルコ」と、喪失を意味する「ペニア」を組み合わせた造語で、老年医学界で使われている用語です。

 サルコペニア状態に陥ると、立ち上がりや歩行といった日常的な動作が難しくなります。そして、ますます歩かなくなると、筋力がさらに落ち、足が上がらなくなって、歩行時に転倒しやすくなります。

 というわけで、端的にいうと、高齢者にとっての運動は、「心肺機能を高める」よりも、「筋肉を維持する」ために必要なものなのです。

70代は「いろいろな道を」
80代は「決まった道を」

 最近、『直立二足歩行の人類史』(ジェレミー・デシルヴァ著)という本を読みました。そのタイトルよりも、「人間を生き残らせた出来の悪い足」というサブタイトルに惹かれて読みはじめたのです。

 本当に、ヒトの足は出来が悪い。生物の進化から逸脱するかのように、「二足歩行」を始めたので、私たちの足は、大きな頭や上半身を支えるのに、まったく向いていないのです。

 その証拠に、他の四足歩行の動物は、ころんでケガをしたりしません。ところが、ヒトは、下半身の筋力が落ちると、たちまち転倒しやすくなり、しかも大きなケガを負います。だからこそ、意識して筋肉の維持に務めないと、「出来の悪い足」を使いこなせなくなってしまうのです。

 では、高齢になってから、どうすれば筋力を落とさずにすむか?──それは、やはり「歩く」ことに尽きます。歩き続けるために、歩くのです。歩くと、足腰の筋肉だけでなく、背筋や腹筋も鍛えられます。歩くことは、最も手軽な全身筋トレなのです。

 しかも、歩くと、血流がよくなり、心肺機能や代謝機能が高まります。体全体の若さを維持する効果もあるのです。

 ここで、高齢者がトレーニングとして「歩く」ときの心得をいくつか紹介しておきます。