「電気やガスが自由に使えるのは当たり前」なのか
インフレの大きな原因の一つは、電気やガスなどエネルギー価格の高騰だった。総務省によると2023年1月の電力価格は前年同月比で15.3%、ガス価格は18.2%上昇した。日本では電気・ガス料金を気にしない人が多かったが、2桁の上昇にはさすがに驚きを隠せないでいる。現在電気・ガス価格は沈静化の傾向を見せているものの、去年から今年春にかけての価格高騰は、多くの人にショックを与えた。
これまで日本では、「電気やガスはいつでも好きなだけ使えるもの」と思っている人が多かったのではないだろうか。
朝起きて、壁のスイッチを押すと部屋に電灯がともる。お湯を沸かすためにガスコンロのスイッチをひねれば、火がつく。夏にエアコンのリモコンのボタンを押せば、冷房が作動して涼しくなる。冬には、同じリモコンのボタンを暖房に切り替えれば、部屋が暖かくなる。風呂場の蛇口をひねれば、ガスで暖められたお湯が出てくる。PCやタブレットの電源を入れれば、勝手に無線LANでインターネットにつながる。快適で、便利な暮らしだ。
私は、1990年から33年間ドイツで働いているが、この国でも、ほとんどの市民は「電気やガスが自由に使えるのは当たり前」と考え、料金にもあまり注意を払っていなかった。
だが、安いエネルギーをいくらでも自由に使える暮らしというのは、本当に当たり前なのだろうか?
ドイツ市民・産業界を襲ったガス不足のパニック
ドイツでは、2022年2月24日にロシアがウクライナへの侵攻を開始して以来、市民は頭をガツンと殴られるような変化を経験した。戦争をきっかけに、エネルギーに対する意識が根底から覆ったのだ。
49年間にわたって西欧に天然ガスを送り続け、近年はドイツが輸入する天然ガスの多くを供給していたロシアが天然ガスの輸出を打ち切るという、初めての事態が起きた。そのため、一部のエネルギー供給企業は、顧客に対して、ガス・電気の料金を2倍もしくはそれ以上に引き上げると通告した。「ロシアはエネルギーを政治的な武器として使わない」と固く信じていたドイツ人たちの「常識」が打ち砕かれた。