情緒的な中国重視を抜け出し
インド太平洋国家としての道を模索

 韓国の輸出市場多角化は、中国離れの結果でもある。

 中国は国内総生産(GDP)のうち不動産関連が25%に達する。韓国国際金融センターがまとめた報告書によると、中国の1年以内の社債満期到来分の45%が不動産関連企業だ。不動産関連企業の償還能力が悪化し、格付け下落とデフォルトの拡大が懸念される。

 中国不動産市場の停滞は内需市場の萎縮をもたらしており、中国の内需減少は韓国の対中輸出の減少に直結する。また、韓国への中国人観光客による特需は期待ほどではないとの懸念が出ている。

 これまで韓国は中国に対する貿易依存度を低くするため、輸出品目と地域の多角化を進めてきた。それは韓国政府のインド太平洋戦略と関係があろう。

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 韓国政府は昨年12月にインド太平洋戦略を発表し、その中で「大韓民国が成熟した民主主義と経済成長をさらに整え、より大きく飛躍するには、インド太平洋の平和と安定がその支えにならなければならない」とのビジョンを明らかにした。

 韓国は経済成長において輸出貢献度が絶対的に重要な開放通商国家であるため、インド太平洋地域で法治や航行の自由など普遍的価値に基づく国際秩序が維持されることが不可欠である。

 ところが最近は、中国の覇権主義や米中の対立により、インド太平洋地域で緊張が高まっている。尹錫悦政権になって、やっと情緒的な中国重視から抜け出し、国益に基づくインド太平洋国家としての道を日米と共に模索しているというのが、現在の韓国である。

 日米韓首脳会談は、韓国の進もうとする道に合致しているといえるだろう。

(元駐韓国特命全権大使 武藤正敏)