改善しながら感じるのは、「モノ」と「コト」の改善は違うということです。これまで私たちがつくってきた鋳物などの「モノ」は、ものづくりの現場改善などを含めて効率化を図ることである程度の改善が期待できます。生産性と品質を両立させることが重要で、そのための施策も合理的に考えていくことができます。

 一方、サービスなど「コト」を評価するのは人であり感情です。感情は価値観、雰囲気、思い出などに影響を受けるため、生産効率のようにこうすればこうなるといった明確な答えを出すことが難しく、そもそも万人に共通する答えがないともいえます。満足度を高めるにはおもてなしの気持ち、寄り添う気持ちを高めるしかありません。錫婚式は過去に例がないため、私は産業観光でターゲットを30~40代の女性に絞ったときのように、私自身を基準として考えてみました。私が挙式する女性だったら何をうれしいと感じるか、夫はどうか、子どもはどうかといったことを考えて、利用者が共感できそうなアイデア、思いつき、気づきを改善策に活かしました。

 自分の頭の中だけで考えると独りよがりになり、利用者のニーズとズレが生じがちです。錫婚式も出だしはズレがありました。かといって利用者の声だけを聞いていてもニーズが多様でまとまりません。重要なのはその間をバランスよく狙うことです。自分が主体となり、当事者として共感できる内容を考え、そのうえで利用者の声を反映させてニーズに近づけます。この組み合わせによって錫婚式サービスの完成度、満足度を高めていくことができるのです。

夫婦の危機を乗り越えるカンフル剤
「錫婚式」を文化にしたい

 錫婚式を挙行した夫婦のアンケートを読むと、約半数の夫婦がパートナーに対する意識や夫婦関係が変わったと答えていました。利用者の人生に寄り添うことで心を満たすことを目指す私たちとしては、この数値を高めていくことが今後の大きな目標となりました。

 錫婚式は夫婦や家族の関係性をリフレッシュする機会になり、夫婦円満、家族円満のための効果も大きいのではないかと思いました。厚生労働省の「令和4年度 離婚に関する統計の概況 人口動態統計特殊報告」によると、離婚した夫婦の同居期間について年次推移を見ると、同居期間が5年未満の割合が最も高く、次いで5~10年です。仕事や子育てが忙しくなり、夫婦でコミュニケーションをとる時間が減ることが一因だと考えられます。夫婦関係や夫婦の会話に対する満足度については、10~20年で不満が高まるというデータもあるようです。