餃子写真はイメージです Photo:PIXTA

「日付以外すべて誤報」とも言われた「東京スポーツ」、通称東スポ。新聞業界の不況を受けている同社が2021年に売り出したのは、まったく畑違いの「東スポ餃子」なるものだった。新聞業界や食品業界で話題になった「東スポ餃子」だが、異業種に参入した経緯について、仕掛け人が語った。本稿は、岡田五知信著『起死回生 東スポ餃子の奇跡』(MdN)の一部を抜粋・編集したものです。

「新聞界がダメになるぞ」
ネガティブな意見も

 新聞業界の中から食品業界へ進出をする発想はなかなか思い浮かばない。保守的な業界でもある新聞界の中で、東スポが畑違いの餃子を売り出したことで、他紙や日本新聞協会、その他業界からの横やりが入ったりしたことはなかったのだろうか。「東スポ餃子」の企画販売を先導した東京スポーツ新聞社取締役編集局長の平鍋幸治氏に尋ねてみた。

「まったくなかったといえば嘘になりますが……。気にはしなかったですね。僕の性格です。打たれ強いですからね。そもそも、他紙もそれどころじゃないでしょう。なんだかんだいって本業以外のことをすると、さまざまな批判を浴びるのではないかといった懸念は、皆心配し過ぎかと思います。

 むしろ、他の夕刊紙さんなんか、うちに触発されて食品ビジネスに乗り出したんです。『夕刊フジ』がシュウマイを売り始めたんですから(『夕刊フジ』は、2022年7月29日に『生姜 小籠包』を発売。『東スポ餃子』がニンニク3倍増しなら、こちらはショウガ10倍増し。しかも、《『夕刊フジ飯店』の新ブランド第1弾のオリジナル食品》と謳っていることから、第2弾、第3弾と続くようである)。

 あとは、他のスポーツ紙の人たちから問い合わせが非常に多くなりました。『この企画は誰が考えたの?』と。当初はごまかしていましたが、面倒なので最近は正直に、『実は私なんです』と答えている。そうすると、『よく考えたな。うちもこういうプロジェクトを進めなければダメなのかもな』という感じの好意的な声が直接聞こえてきます。

 もちろん、『本業にもっと気合を入れろ』とか、『新聞界がダメになるぞ』なんてネガティブでちょっと見当違いな意見をいわれることもありましたが、基本、気にしません。このような意見をいう人の大半が否定するだけで代替案を持っていない。

『だったら……どうしたらいいと?』

 逆に質問すると黙ってしまうんです。もちろん“前向きな否定意見”なら聞く耳を持ちますよ」

夕刊紙の食品ビジネスは
「夕刊フジ」が先行していた

 そもそも夕刊紙の食品ビジネス参入に関しては、「夕刊フジ」が“先輩格”だった。2006年には駅弁「夕刊フジ特選おつまみ弁当」の販売を開始(2015年に終了)し、2014年にはコンビニのファミリーマートとコラボして「のり巻きカレーおむすび」を1カ月限定で販売している。さらには同年、居酒屋チェーンの協力を得て「オレンジ世代酒場」を期間限定で数店舗ばかり展開しているのだ。

 今回の生姜小籠包の発売について、「夕刊フジ」の代表者である佐々木浩二氏はフードサービスジャーナリストの取材に対し、「小籠包の発売を思い立った直接的な理由は『東スポ』が突然餃子を販売したから。しかし夕刊紙で食を扱うのは『夕刊フジ』が先だったので、ここで『東スポ』に負けられないという思いがあった」と、東スポに刺激されて発売を決めたことを素直に認めている。

 さらに「夕刊フジ」は、2022年9月2日発行の紙面で「“生姜10倍”健康・小籠包VS“ニンニクマシマシ”餃子 食品事業でも同じ土俵で戦う夕刊紙のライバル『夕刊フジ』『東スポ』点心対決」という記事を掲載している。

 ここでも前掲の佐々木氏は、「強敵はたくさんいるが、『夕刊フジ』は『東スポ』と競いたい。こういうことを消費者に面白がってもらうことが望ましい」とコメントし、夕刊紙による食品ビジネスを東スポとともに発展させていきたいという意欲を示している。

 一方の「東スポ」も、それに先んじる形で、2022年4月下旬に第2弾になる「東スポからあげ醤油味ニンニクマシマシ」の発売を開始した。こちらは国産若鶏の肩小肉を使い、餃子同様に一般的な唐揚げで使用するニンニクの3倍の量を使用している。肩小肉は“ふりそで”とも呼ばれ、ムネ肉と手羽元の間にある部位のことだ。鶏1羽から約40~60グラムしか取れないという希少部位で、焼き鳥屋でもお馴染みだ。

 ムネ肉のあっさりした感じとモモ肉のジューシーさを併せ持ち、食べごたえのある部位なのだ。そしてニンニクは、もちろん餃子と同じ青森県産を使っている。こちらも業務用から販売を開始した。

 この「東スポからあげ」だが、発売前の4月13日に開催された「第13回からあげグランプリ」(日本唐揚協会主催)の「東日本しょうゆダレ部門」で見事、金賞を受賞している。「東スポからあげ」を扱う東京・品川区のラーメン店「元祖札幌や」が受賞したのだが、実質は「東スポからあげ」による受賞だったという。このような事情から「東スポからあげ」は業界団体からの金賞受賞というお墨付きを得て、晴れて発売となったのだ。

「東スポからあげ」も販売で
食品事業を加速

 それにしても「東スポ餃子」プロジェクトも進行する中、なぜ、突然、「東スポからあげ」の販売にも手を広げたのか? 実は「東スポ餃子」が各方面にいい意味で多大なる影響力を発揮していたからだという。平鍋氏は語る。

「驚いたのは『東スポ餃子』を出してから、これまで付き合いのなかった会社からいろいろな提案を受けたのです。違った業界に東スポブランドが浸透したということです。中でも一番多かったのが食品事業会社です。その中でJAから声をかけていただいて、鶏肉を直接、仕入れることができるようになりました。もちろん餃子で協業している戸田商事が東スポの後ろに控えているから、信用を得られたということは大きいですね。その流れで鶏肉といえば唐揚げだ……と。また、戸田商事と一緒に味の開発をしていきました。

 もちろん、完成した味には自信がありましたが、餃子に次ぐ第2弾というよりさらにインパクトを強くするために、『からあげグランプリ』に出品して、受賞を狙ったんです。話題作りだけでなく、本当においしいんだってことを世間に知ってもらいたかった。そこで見事に金賞を受賞できた。今回は、それを販促に使うことができたわけです。

 ただし、『東スポからあげ』の販売方法はかなり難しいですね。餃子の場合はフライパンの上でも焼けるから家庭でも作れます。しかし、唐揚げは片栗粉にまぶしてから、揚げなければなりません。だからひと手間がかかるわけです。家庭用にレンチンするタイプで販売することも検討しましたが、レンチンタイプの唐揚げは他にもたくさんあるので、販売しても競争に負けてしまう。

 また、家庭用のレンチンタイプは、どうしても油っぽくて綺麗に揚げることが難しいのです。その結果、味が落ちます。餃子もレンチンタイプの味は落ちますが、落ち方の落差が唐揚げほどではないんです。売り場もまだまだ確保されていないので他の大手の商品の中に埋もれてしまう危険性があった。でも味には絶対の自信があったのです。

 そこで、まず手始めに『東スポからあげ』を業務用だけで販売し、餃子と同じようにある程度名前が知られるようになってから家庭用にレンチンタイプを出していこうと戦略を変えました。ですから『東スポからあげ』の方は、浸透するまでにもう少し時間がかかると思います。あと半年もしたらかなりの数が市場に出回ると思います。