法廷後見制度は
財産処分がやりにくい

 埼玉県に住む50代の大田さん。高齢の母がおり、父はすでに亡くなっています。母は都内の戸建てで一人暮らしをしています。目立った財産は都内の自宅のみ。母が認知症気味になったため、自宅を売ってその資金を元に介護付き有料老人ホームに入所させることにしました。大田さんはボソボソと当時の話をしてくれました。

「私は埼玉に家庭があります。母は都内で一人暮らし。あるとき、母が3時間以上も徘徊して神奈川県川崎市で警察に保護されたんです。その後、認知症と診断されました。もうダメだなって思っていろいろと考えました。私は一人っ子だし、日中仕事もあります。母の面倒を見ることができないし、費用の安い特養にすぐに入れるわけでもありません。最終的に、お金もないので母の自宅を売却して介護付き有料老人ホームに入所させようという話になりました」

 しかしそう簡単に事は進みませんでした。

「自宅を売却しようとして不動産屋に相談しました。比較的トントン拍子に話が進んだのですが、いざ契約という段階で、母が認知症と診断されていることを言ったら、『(母に)行為能力がないので不動産は売却できません』と言われてしまったんです」

 法律上、認知症の人は契約行為ができませんので、その人が所有している自宅の不動産も当然売却できません。

 大田さんのように、親が認知症になったので自宅を売って、そのお金を老人ホームの入居の足しにしようとしても、自宅を売却する登記を行う司法書士による本人確認時、不動産業者から「頭の健康が損なわれているので売れません」と言われることになります。

 そこで認知症の親を「法定後見」(成年後見制度の一種で後見人に法律行為を代理してもらう)制度を利用した場合、今度は「後見人(認知症の人の法律行為を代理して行う人)や監督人(後見人を監督する人)という第三者の目」が出てきますので、財産処分が非常にやりにくくなります。

 法定後見を利用した場合、後見人が被後見人(認知症の親)の自宅を売却するのにも、家庭裁判所の許可が必要ですので、通常の不動産売買のように「すぐ売却」という手はずにならず、時間がかかります。