テレワークでは人は育たない写真はイメージです Photo:PIXTA

テレワークは現在、就活で最も重視される項目ですが、書籍『理想で部下は育たない』の著者であり、上場企業の3分の1以上を顧客に持つWeb業界のリーディングカンパニーを率いてきた井上氏は、「テレワークでは人は育たない」と説いています。その理由とは?

テレワークで人が育たない3つの理由

 新型コロナウイルス感染症の流行以降、テレワーク制度を導入する企業が増えました。従業員の育児・介護の支援、地方在住の人材採用、通勤が困難な障がい者の雇用創出など、企業と従業員の双方にとってメリットのある制度と言えましょう。

 私の経営する会社でも、新型コロナウイルス感染症の蔓延防止と、社員の健康を守るために、一時的に全社員のテレワークを実施。その後、制度化しました。働き方の選択肢が増えたことで、とくに子育てや家族の介護が必要な社員の働きやすさが増したことは確かだと考えています。

 このように、メリットばかりが強調されがちなテレワークですが、デメリットもあります。ここではとくに重要と思われる3点のデメリットを挙げていきます。

 1つ目は、「部下に対するタイムリーな指導ができない」という点です。

 先述の通り、人は自分の行動の問題点に気づくことはできないものです。正しいプロセスで作業を進めているか、ビジネスの基本動作に反した行動を取っていないか、チェックできるのは「上司の目」しかありません。

 さらに言えば、気づいたその場で間違いを指摘し、直さなければ、問題行動はなくなりません。後から注意されても「なんで今さら言うのか?」と反発を生むだけです。

 同じオフィスで働いていれば、常に部下の作業の様子を見ることができますので、問題に気づきやすく、その場で指導することも可能でしょう。ところがテレワークではそうはいきません。結果としてタイムリーな指導ができず、部下に「サボり癖」がついてしまったり、一人前のビジネスパーソンに育てることができなくなったりしてしまうのです。

 2つ目は、「テレワークではコミュニケーションの量と質が落ちてしまうこと」です。

「目は口ほどにものを言う」とはよく言ったもので、「目」から伝わる情報は驚くほど多い。例えば、「パソコンのデスクトップがアイコンで埋まっているから、ミスが起こるのだ。今日中に整理しておきなさい」という注意を、直接顔を合わせて言われるのと、チャットで送られてくるのとでは、部下のとらえ方がまったく違ってきます。つまり、顔を合わせた時よりも、チャットの方が冷たく感じられてしまいます。したがって、チャットやメールだけで指導を済まそうとすると、リーダーが考えている以上に部下は委縮してしまうものなのです。

 それから私の経営する会社の若手社員からテレワークについて、こんな意見もありました。

「上司の様子がわからないので、『今は忙しいだろう』と勝手に考えてしまい、相談することをためらいがちになっていました」

 程度の差こそあれ、テレワークをしているすべての人が、同じ状況にあると考えて間違いありません。これでは上司と部下のコミュニケーション回数が減ってしまうのは当然です。業務にまつわる必要最低限の報連相しかできず、ちょっとした雑談すらできなくなるでしょう。

 このようにテレワークではコミュニケーションの質と量が落ちてしまうため、部下との信頼関係を築きにくくなってしまうのです。

 3つ目は、「テレワークでは孤独を感じやすい」という点です。

 内閣府の行った調査によると、「テレワークで不便な点」として30%以上の人が「社内での気軽な相談・報告が困難」、「画面を通じた情報のみによるコミュニケーション不足やストレス」と答えています(2022年7月、内閣府『新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査』より)。

 実際に私のところにも、テレワークをしている社員から「孤独感がある」という意見が多く寄せられています。孤独感が強くなるほど、ストレスも大きくなりますから、体調に異変をきたす恐れが生じてしまいます。

 新入社員のうちからテレワークをしている人の中には、同僚の顔すら知らないという人もいます。当然、気の置けない同僚などできるはずもなく、ちょっとした雑談で息抜きすることすらできませんから、なおさら深刻な問題と言えるでしょう。