部下のモチベーションばかりを気に掛ける上司は、逆に部下の成長を妨げてしまいます。書籍『理想で部下は育たない』の著者で、長年Web業界を牽引してきた経営者でもある井上氏が「『モチベーション管理』に頼るマネジメントは確実に失敗する」と断言するその理由とは?
陥りやすいマネジメントの失敗例
部門の成績はリーダーのマネジメントによって左右されると言っても過言ではありません。そのため、多くのリーダーがマネジメントの方法について頭を悩ませていることでしょう。
正しいマネジメントの方法を説明するにあたり、まずは陥りがちな失敗例からあげてみようと思います。
かつて私の経営する会社で、成績の振るわない部門がありました。
過去に定めた業務の基準が、今の会社に合わなくなっており、仕事の進め方を変えていかねばならなかったのです。さらに、社員たちが誰一人として会社から決められた手順を守っていなかったことも、成果のあがらない要因でした。
そこで私は部門の立て直しを期待して、大手広告代理店の支店長だったEさんを中途入社で迎え入れ、責任者に任命しました。
Eさんの前職の会社には、もとより優秀な社員が多く、上司たちは部下のモチベーションを大事にすることで業績を伸ばしていたようです。
Eさんはそのマネジメントの手法を、赴任したばかりの新しい部門にも当てはめようとしました。つまり、「部門の成果があがらないのは、社員の仕事に対するモチベーションが低いからだ」と考えて、部下と面談することからはじめたのです。
仕事に関する悩みを聞き、アドバイスをすることでモチベーションアップを目論んだのでしょう。ところが、部下たちの口から出てきたのは「労働時間が長い」、「給料が安い」、「社員の意見を聞いてくれない」など、よくありがちな会社に対する不平不満ばかりでした。
そこでEさんは「社員が伸び伸びと気分良く働けば、部門は発展するはずだ」と結論付けて、部下の不平不満を取り除くことに集中します。部下の愚痴を聞き、事あるごとに飲みに連れていくなど、溜まったストレスを解消させ、気持ち良く働いてもらう環境を作ることに力を入れました。
ただしそれでは「錆びた鉄に金メッキを施すようなもの」です。
はたから見れば雰囲気の良い組織に映るかもしれませんが、なんの解決にもなりません。むしろメッキの下でますます錆が広がってしまうのは目に見えています。
案の定、部門の成績は落ち込み、部下の状況は一向に改善されませんでした。そのため次から次へと人が辞めていく始末……まさに火に油を注ぐ結果になったと言えましょう。そうして、ついに私はEさんを責任者から外さざるを得なかったのです。