コロナ禍を経て、中国人の旅行スタイルが変化している
日本もタイと似たような状況になるのでは

 北京で旅行会社を営む知人に聞くと、「日本への団体旅行が解禁された後、一時は問い合わせが多かったが、実際に成約に至ったのはそれほど多くない。なぜなら、富裕層は団体旅行をしない。中間層以下は収入が減り、海外旅行なんかする余裕がないからね。コロナの3年間で行動制限された反動で、今、国内の観光地はどこも大盛況だ。しかしフタを開けてみると、一人当たりの平均消費額が非常に少ない」と教えてくれた。

 さらに「今年1月、ゼロコロナ政策が解除され、中国の観光客がタイへ殺到した。タイの副首相や観光局長が自ら空港で出迎えて、『熱烈歓迎』と書いてある横断幕を掲げて、中国のインバウンドに期待していた。これは今の日本とよく似た状況ではないか?」と話す。結果はどうだったか。タイ観光庁の統計を見ると、今年6月までの半年間で、中国の観光客はわずか140万人だった。予想していた700万~1000万人のたった20%しかいなかったのだ。

 このように、中国の国内の政治・経済事情は、コロナ前と今とで大きく変わった。一つだけ日本への旅行者が増え、“爆買い”が期待できる要因があるとすれば、為替レートが円安・元高なことだろう。中国人から見れば、円安な日本でお金を使えば、何を買っても食べても割安でお得感があるからだ。中国を含め世界中でインフレが起こり、物価が大きく上昇している中で、日本の物価はまだまだ安い。収入が減り、節約志向を強めている中で、“安いもの”を狙っての買い物はあるかもしれない。しかしこれは、コロナ前の買い物、いわゆる爆買いとは、本質も目的もまるで違う。

 このように、筆者は「団体旅行が解禁されても、中国人旅行客はそうそう増えない。“爆買い”も復活しない」と予想している。さらには、8月24日に始まった福島第一原発の処理水の海洋放出で、中国では今日本に対する批判が高まっている(参考記事)。日本への団体旅行者は急増どころか、激減する可能性さえあるのだ。