アクティビズムとSNS
インスタグラムの「ドレスコード」

 社会問題の投稿とSNSというテーマで、一つ象徴的な事案がある。

 2018年末、人気モデルのローラさんがInstagramのストーリーで、沖縄県名護市で海を埋め立てながら進む「米軍辺野古新基地建設の中止」に関するホワイトハウスへの署名を呼びかけた一件だ。

 この件は大きな話題となり、賛同と批判の渦を巻き起こした。筆者はこの件をリアルタイムで注視していたが、Twitterや他のWEBメディアがこぞって騒ぎ立てるなか、当のローラさん本人のインスタアカウントは案外、静かなものだった。投稿から数日はローラさんのアカウントに批判コメントが並んだが、驚くほどの速さでネガティブなコメントは減っていった。

 それはまるでローラさんのファッショナブルな投稿の輝きに、批判者たちが耐え切れず消毒されていくかのように見えた。陰のTwitterと陽のInstagramという対比が明確に可視化できた一件だった。

 あるZ世代のアクティビストは言う。

「インスタはまず、ダサいかダサくないか。それが価値基準。ドレスコードのようなもの。どんな理屈もそのコードを守っていなければ、インスタに載せる意味がない」

2020年前後、Twitterで何が起こったか

 2019年に起きた香港民主化デモや、2020年の米国でのBlack Lives Matter(黒人差別抗議)運動を取材した私は、当時から既に、海外の抗議活動ではInstagramが主流になっていることに気づき、驚いた。その中心にいるZ世代たちは「OK BOOMER」という、ベビーブーム世代・団塊世代を否定したり、嘲笑するネットミームをすでに生み出していたほどだ。

 しかし当時の日本のアクティビストたちはまだ、Twitterでの発信が主だった。

 折しも2020年はTwitterで 「#検察庁法改正に反対します」 のハッシュタグデモが爆発的に拡散され、法案を廃案に追い込んだ。コロナ禍の緊急事態宣言中で多くの人がステイホームしていたことも作用したが、ハッシュタグデモにはわずかな希望があった。

 2020年頃の日本のTwitterは、それまでの2ちゃんねる世代のいわゆるオタク的な空気と、多様性を掲げるインスタ世代(ミレニアル、Z世代)の新しい価値観が混ざり合うような場所で、新世代が台頭する期待感もあったのだ。

 一方で、DMCAの悪用(著作権侵害を偽って訴えること)などによるフェミニストアカウントの凍結も始まっていた。現在に至る「治安」の崩壊の足音が聞こえ始めていたのだ。

 特に2020年11月の米国大統領選挙後、米国議会の議事堂襲撃事件が起こったり、ドナルド・トランプ前大統領のTwitterが凍結されたりなどし、Twitterをめぐる状況はあからさまに雲行きが怪しくなった。
 
 そして、コロナ禍の中盤、ワクチンやマスク、ジェンダーなど、人々は今までなかった新しい対立軸に翻弄され、分断が広がりはじめた。コロナ禍で直接対話できないことも原因だろう。SNSではその対立が激化の一途をたどった。