会社が一方的に社員の給料を下げるのは「不利益変更」
翌日、D部長は所用で会社を訪れたE社労士にAの件を話し、尋ねた。
「A君と面談し、給料を下げると言ったら激しい抵抗を受けました。一度決めた給料の額って、下げられないものなんですかね?」
○労働条件の不利益変更とは、賃金、労働時間、休日や休暇、福利厚生などの条件を、会社が一方的に、労働者が不利になるような変更をすることをいう。
○一例として、労働時間、業務内容などの条件変更がないのに賃金を下げる、労働時間を延長する、公休日を減らす、福利厚生を廃止するなどがある。
○不利益変更を行う場合は、会社が一方的にすることはできず、原則として労働者の合意が必要である。(労働契約法第8条)
E社労士は説明を続けた。
「Aさんの場合、他の労働条件の変更なしに基本給を30万円から23万円に減額するので、不利益変更になりますね」
「でもミスばかりするA君に、他のメンバーと同じ給料を払うのはねえ……。何とか彼に減給を納得させる方法はないですか?」
「能力不足の社員に対して不利益変更をするためには、下記の条件をクリアする必要があります」
○能力不足の社員とは「事務的なミスを繰り返す」「顧客対応が不適切で苦情が多い」「営業成績が著しく不良である」「業務に必要なスキルが著しく不足している」などが当てはまる。
○能力不足の社員に対して不利益変更を行うには、原則企業が十分な指導を行い、それでも改善されない場合に限定される
「A君には、仕事を覚えてもらうために特別仕様のマニュアルを作ったり、かなりの回数、個別指導をしたりしています。これで給料を下げるのは可能ですね?」
「待ってください。この話には続きがあり、次の(1)から(3)の全部を満たすことも必要です」
(1)就業規則への明記があること
給与規程などに「勤務成績が不良の場合減給することがある」などの明記がされていること
(2)評価制度の定めがあること
職務に対して会社が求めている基準があり、その基準からみた社員の業務遂行度について明確に評価する制度があること。
(3)(2)の評価結果と連動する賃金テーブルが定められていること。
※(2)(3)の内容は、就業規則等で社員に周知されていることが必要