銀行での出世の明暗を
分けるのは能力ではない

 私の働くメガバンクでは、公務員のような昇進試験はない。支店長が全権を握り、部下たちの評価を下している。このような状況であれば、とにかく支店長に気に入られる行動を取るしかない。気に入られなかったら終わり。支店長の在任期間はおおむね2年。その間は足踏みしかない。

 支店長が代われども足踏みが続けば、先が見えてくる。退職までの残りの年数が近づいてくると、最後の職位はどのくらいで終わるのか、大体分かってくる。課長で終わるのか副支店長で終わるのか。退職金だって数百万円は変わるらしいし、企業年金の支給額も違うと聞いた。苦労した者が正当に報われないのは極めて残念だ。

 …そんなにつらい毎日だったなら、そんなに不遇な評価を受けてきたと思っているなら、もっと早く辞めていればよかったじゃないか?

 それも正解だ。しかし私は、転職を選ばなかった。拙著『メガバンク銀行員ぐだぐだ日記』にも詳しく記したが、銀行には暗黙の「5年ルール」がある。顧客との癒着による不正を回避すべく、営業職であろうとも事務職であろうとも、5年以内に人事異動となり、他部署や他支店へ転勤となる。それが転職みたいなものだと、自分に言い聞かせていたのもある。

 私がこの銀行に入行してから四半世紀。今数えてみたところ、10回前後の転勤を経て20人ほどの支店長に仕えた。相性が合うか合わないかを確率論で考えれば50:50のはずだったのだが…。

 自分自身で言うのもおこがましいが、私のことを高く評価し、人事異動で着実にステップアップさせてくれた支店長はおおよそ4分の1弱。反対に、残念な人事異動を命じた支店長はおおよそ4分の1強。致命的なタイミングで出会ってしまい出世レースに乗り遅れ、最後には支店長への道からも外されてしまった。残りの2分の1には、どうとも思われていなかったようだ。それもまたつらいといえばつらい。

 私を高く評価してくれた4分の1弱の支店長が、いいタイミングで私を評価していたら、もっと早く課長を卒業したかもしれない。逆に、悪い評価を下した4分の1強の支店長が最悪なタイミングで低評価を与えたら、私はいまだヒラ社員だったかもしれない。

 当たり前のことだが、出会いは運以外の何ものでもない。部下と相性が合わなければ、支店長は服を着替えるように異動させることができるが、部下は支店長を選ぶことはできない。もっとも、我慢しかねて支店長をパワハラで訴えて退ける猛者が現れたのも、時代の波か。

書影『メガバンク銀行員ぐだぐだ日記』(三五館シンシャ)『メガバンク銀行員ぐだぐだ日記』(三五館シンシャ)
目黒冬弥 著

 このような環境であり、残念ながら銀行で出世するための方法など、これといった妙案は見当たらない。要領よく調子のいいことばかり言ってとんとん拍子に昇格していく者もいれば、性格のいいヤツが損な役回りばかり背負わされ、浮かばれない銀行員人生を過ごす人もいる。

 明暗を分け隔てたものは何か。人間の能力で言えば、そんなに大きな差はないはずだ。やはり、支店長の影響がかなり大きいと痛感する。まあ、私がこんなことを言うのも負け犬の遠ぼえにしかならないが。

 そんな事を感じつつ、私は今日も明日もこの銀行で勤務する。つらいことも喜びもあった。この銀行に感謝している。

(現役行員 目黒冬弥)