新しいつながりをつくるチャンスはありますが、急に乗り移ることは難しいので、定年前から種をあちこちにまいておくことをおすすめします。40~50代のうちから、趣味の集まり、ボランティアサークル、喫茶店の顔なじみ、ペット仲間など、何でもいいので顔見知りをつくっておくのです。

 家と職場以外のサード・プレイス、つまり第三の場所をつくり、そこに家族でも会社の同僚でもない知り合いがいることが理想です。

 とくに仕事一筋だった人は、定年になるとつながりが一気になくなり、交友関係に根本的な変化が生じます。「定年になってから考えよう」と思っていると、長年の会社勤めで身についた思考や行動のパターンが邪魔をして、すぐには適応できないものです。

 高齢者の幸せは「つながり」がキーワードです。つながる機会が少なくなった高齢者は、どうやって新しいつながりをつくればよいのか、考えていきましょう。

意外に重要な「弱いつながり」

 年末近くなると、「今年から年賀状を失礼いたします」という葉書がよく届きます。その多くは高齢者からのものです。確かに何十枚という年賀状を作成して送付するのは、かなりの重荷には違いありません。

「その人にとって大事なものは年齢とともに変化して、高齢になると情動に基づいて自然と物事を選択していく」という社会情動的選択性理論に従えば、続けたければ続ければいいし、やめたければやめればいいのですが、「年賀状はやめたいけれども、この人とはやりとりを続けたい」という気持ちも湧いてきます。

 答えは簡単です。毎年のやりとりが面倒くさいと思う相手なら、高齢者の選択肢としてやめてしまうのは間違っていません。でも、つながりを持ちたい人となら、細々と年賀状をやりとりすればいいのです。

 ゼロか10かの二者択一ではなく、気持ちや体力に合わせて10だったものを1~3くらいに減らせば、本当に大切にしたい人とのつながりを無理なく維持できます。

 幸福学の視点からすると、年賀状をゼロにするのはあまりおすすめしません。というのも、年に1回、年賀状をやりとりするような「弱いつながり」は、高齢者の幸せにとって重要なものだからです。深いつながりのある知人がごく少数いるだけであるよりも、弱いつながりの知人を多く持つほうが、高齢者にとっては幸福度が高くなります。