ジャニーズ事務所ばかりから「買っている」と
テレビ局の交渉力は弱くなる

 以下に『競争の戦略』の第6章から本件に関係するポイントを記す。

●総売上高から見て、購入量の少ない買い手は交渉力が弱い。購入量が少ない買い手は、値引き、運賃込み価格など特別な譲歩を売り手に要求するだけの力がない。

 売り手は、自社の商品をたくさん買ってくれるお客さんに対しては、立場が弱い。たくさん買ってくれるお客さんは自社の盛衰を左右するので当然である。そして、それは、自社の売り上げの中で特定の買い手の比率が高くなれば、結局その買い手のわがままをすべて聞かなくてはいけなくなるということでもある。

 逆に言えば、買い手から見て、特定の売り手からの購入比率が高い場合、買い手の交渉力は、売り手に対して弱くなるということである。

 若い男性アイドルという「商品」を供給してくれる特定の1社の比率がたとえば7割を超えれば、その会社から「御社には売りません(供給しない)」と言われた途端に番組が成立しなくなる。それで、テレビ局は売り手に逆らえなくなってしまうのである。

 普通であれば、買い手はそうならないために、特定の会社への依存比率を下げるべく、その会社のライバル企業を育成する。いざとなったら、いつでも他社に乗り換えることができるように、価格なども互いに競わせるようにするものである。

 しかし、テレビ局はジャニーズ事務所以外の売り手(供給先)を持て(持た)なかったということだ。

●仕入先選定や取引、折衝に高いコストがかかる買い手は、交渉力が弱い。当社以外の企業から見積りをとったり、当社以外の企業と折衝、取引がむずかしいような買い手は、ふつうは交渉力が弱いものである。

 買い手が、ある特定の売り手だけでなく、それ以外の企業と取引をしようとしても、相手が見つけられないような場合のことを言っている。特定の売り手以外の会社が、買い手に同様の商品を供給できない場合、あるいはそのような取引をしようとしない場合がこれに当たる。

 たとえば、この領域はA社が取るけれども、この領域はB社が扱うといった形で業界内に(暗黙のうちに、あるいは談合によって)すみ分けのルールができており、それを売り手各社が守っていれば、買い手は容易に代替の供給業者、つまり他の売り手を見つけることができず、結果的に売り手に対して買い手の交渉力が弱くなる。

 それを防ぐためには、買い手は売り手を競わせる環境を作っていかなければならない。売り手が(明らかに)談合してすみ分けしているという状況にあるなら、公正取引委員会に訴え、社会にアピールしてでも状況を変えるようにしなければならない。しかし、芸能事務所各社の巧みな立ち回りによって出来上がった業界構図により、テレビ局は上記のような環境を作ることが難しかったのである。